卓話「苦悩する国際人道法」
保護対象を拡大してはいるが

 
田村 光彰
世連石川県連副会長

世界連邦石川 35:2(2006.8.1)




人間は、戦争をしながら、一方でその被害が捕虜や弱い立場の人々に及ばないような努力(「戦争の人道化」)を重ね、他方で戦争そのものを廃止、非合法化する試みにも取り組んできました。国際人道法は、第一に、二〇世紀初めに「人道の法則」を定めた「ハーグ条約」や捕虜の人道的待遇を定めた一九二九年の「捕虜条約」、そして戦後の戦争犠牲者の保護を定めた「ジュネーヴ四条約」などを指します。


第一次世界大戦は、軍事・経済・政治を総動員した初めての大量殺りく戦争でした。空からは飛行機や飛行船からの無差別爆撃、海では潜水艦から、陸では戦車や機関銃や毒ガスでの攻撃―これらは人を選びません。前線と銃後の別もなく、高齢者、女子、子ども、障害者にも被害を与えます。国際人道法は可能な限り被害者を少なくしようとしますが、戦争の廃絶を目的とはしません。当然ながら大量殺りく兵器が出現している現在、「人道的な戦争」などという戦争はありえなくなっています。それでも紛争、戦争が即時に廃絶できない以上、国際人道法は、一般の人々(文民)すべてを含むよう保護対象を拡大しています。植民地は解放運動がなければ民族の独立はなかった点を踏まえ、ゲリラにも捕虜の待遇を保証する条約(ジュネーヴ四条約に対する追加議定書)も作られました。対象は拡大し希望も持てますが、「人道的な戦争」を前提としているために、国際人道法は苦悩しています。