国際共生と世界連邦
〜世界が一つの国になったら〜

城  忠彰 (広島修道大学法学部教授)

世界連邦石川 31:1(2004.8.4)


地球規模の廃藩置県


昨日広島を出て特急雷鳥に乗り金沢に来ましたが、途中パスポートやビザを要しませんでした。藩政時代なら、広島の浅野藩から百万石の加賀藩を訪ねるのですから幾つかの関所を通る手形が必要だったはずです。いま世界には200近い国があります。これらを、この雷鳥のようにどの国へも自由に往来できるようにしようというのが世界連邦の考え方です。つまり地球規模の廃藩置県です。それは荒唐無稽でしょうか。

各国は国防や安全保障、貿易などいろいろな面で国家主権を主張しています。その根にあるのは領土や民族意識です。尖閣諸島、竹島、北方領土などの小さな島でも、200の排他的経済水域が決まったために、それらが宝の島になりました。島に限らず、カシミールなど領土を巡る紛争は世界各地に起こっています。

世界連邦が出来たら地球はどのように変わるのでしょうか。200余年前に、哲学者カントは『永遠の平和のために』という著書を出しています。その中に「世界公民」という言葉を使っています。今日で言う地球市民のことです。カントの平和概念は、戦争のない状態を念頭に置いていました。けれども今日の平和概念は、戦争がないだけではなく、人類の福利繁栄、衣食住における快適さを可能にする状態までを考えます。

さてこのような世界連邦をめざす以上は、バラ色ばかりがあるわけでありません。それ相応の責任が伴い覚悟が必要です。世界連邦は、世界各国が横並びに共存するのでなく、立法、行政、司法、世界警察みたいなものが組織的に組み立てられなければなりません。主権の制限が当然ついてきます。今日、国際協力なしには解決出来ない問題が山積しています。地球環境、核兵器、食糧、保健衛生など。

例えば、アフリカに53か国がありますが、これらの国が日本のように冷蔵庫や車やエアコンのある生活を実現したら地球は持つでしょうか。かといって金持ちの国ばかりが地球資源や富を独り占めしていいでしょうか。世界約60億人口のうち、今8億人が飢餓状態にあり、その半分が子供といわれます。国連世界食糧計画(WFP)は、64か国、1,560万人に学校給食を実施しています。1日20円あると、これらの子供の1人1日分の食糧が確保できます。

世連は始まっている


さて21世紀は世界連邦の時代です。世界連邦のシステムは、すでに始まっています。例えば、国連、ユネスコ、ユニセフ、世界保健機構(WHO)、国際刑事裁判所(ICC)などがそうです。他方で民族の独立運動が各地に起こっていますがそれは世界連邦の考えと矛盾はしません。欧州連合(EU)は世界連邦のモデルですし、また米州自由貿易地域(FTAA)やアフリカ連合(AU)、東南アジア諸国連合(ASEAN)なども地域共生の方向で動いています。

私たちはもっと世界連邦に理解をもつべきです。国連を改革して世界連邦に近づけなければなりません。自分一人の力ではと無力感を覚えるかもしれませんが、ニュージーランドの一主婦の素朴な発想が南太平洋非核地帯条約を生みだしました。対人地雷禁止条約もしかり。バタフライ効果の例えのことく、一市民の発想から連帯の輸が広がり平和運動へ大きな成果を呼ぶことがあるのです。

(2004年3月13日世界連邦石川県連主催の講演会要旨・文責在記者)