いまなぜ“世界連邦”か

世界連邦建設同盟副会長 加藤 俊作

世界連邦石川 16:1-2(1991.1.30)



第二次世界大戦の末期に米ソの対立から始まった冷たい戦争はその後ますます激しさを増し、1950年6月の朝鮮動乱でそれは熱戦にまで発展し、第三次世界大戦の怖れさえ感じさせた。このような危機的な状況のなかで叫ばれたことは「この危機を解決する方法は世界連邦をつくるしかない」ということであった。その結果、世界連邦運動はかつてない高まりをみせた。しかし皮肉なことにその後、東西関係の緊張が緩和されるにつれて、今度は世界が東西二つの陣営に大きく分裂していてどうして世界連邦が出来るのか、という素朴な疑問が人々の間に起こり、その結果、運動はかつての勢いを失っていった。以上の事実からも分るようにこれまでの世界連邦運動は核戦争の危機が高まると勢いを増し、世界が一見平和になるとその必要性が人々に感ぜられなくなって運動が停滞するという状況を繰り返してきた、といえよう。

ところがここ数年来、人類はこれまで経験したことのない新しい事態に直面し、いやでも人間は国家の壁を越えて人類的規模で問題の解決に当たらなければならなくなった。それは環境問題である。既に早くから少なからざる有識者がこの問題の重大性について警告を発してきたが、多くの人々は無関心であった。大気や海水の汚染、オゾン層の破壊による地球の温暖化、酸性雨、有機廃棄物やあふれるゴミ、人口爆発およびそれに伴う食料の不足など次々に起こる諸問題はもはや一国内で処理できる問題ではない。さらに画期的な出来事は1985年3月ゴルバチョフがソ連共産党の書記長に就任後、彼によって開始されたペレストロイカ政策が生み出した冷戦の終結と新しい世界秩序創設の動きである。すなわち彼はソ連の民主化を大胆に推し進めただけでなく、東欧諸国が自らの体制(社会主義の放棄と市場経済制の導入)の選択を認め、全ヨーロッパ安全保障協力会議を全ヨーロッパの話し合いの場とすることを提唱した。既に1992年までにECは単一統合市場形成を目指し、着々と準備を進め、究極的にはヨーロッパ連邦の実現を考えている。またアジア太平洋、アフリカ、中南米、アラブなどの地域にも それぞれ地域的な組織が既に形成されるか、または形成されようとしている。このような地域統合の動きは今後いろいろな曲折が予想されるが、最終的には世界が一つに統合される方向をたどることになり、これまで我々が主張してきた「世界連邦」の実現という目標の正しさを証明することになるであろう。

特に最近の交通・通信その他のテクノロジーの急速な発展は国境を越えて世界の人々を結び付け、「地球市民」意識を強化し、人類を一つの運命共同体と考える者の数を増やしていくであろう。

このように世界の情勢が世界連邦運動者の期待する方向に大きく動いているときに我々は当面どのような問題に運動の主力を注ぐべきであろうか。まず第一に目指すべきことは、「国連の強化」であろう。世界連邦主義者は運動の当初からこれを第一の目標にかかげてきた。しかし国連を強化するためには国連憲章の改正が必要である。この点についてソ連は頑なにそれに反対してきた。国連の改正には五大国の一致した賛成が必要であり、ソ連がこれに反対する限り実現の可能性はない。ところがゴルバチョフの出現によりこの問題について希望が持てるようになった。いまこそ我々は初心にかえって本来掲げてきたこの目標の実現に努力を掲げるべきであろう。これまで世界連邦世界大会は何回か「国連憲章改正案」を採択し、公表してきている。その中には非常に優れたものが少なくない。とくに1963年に東京で開かれた世界大会で採択された「東京提案」は極めて具体的に改正案を示しており、国連憲章改正の可能性がでてきた今こそ真剣にこれを検討すべき時であろう。ここにこの「提案」のうち幾つか重要と思われる条項を紹介してみよう。

〔勧告二〕
1.憲章は各国の完全軍縮を規定する。国家政府は国内と秩序を維持するに必要なだけの警察力を保持する。(以下略)
〔勧告三〕
憲章は軍縮の監督を担当する国連査察庁、ならびに憲章の規定、そのもとで制定された法律、国際司法裁判所および他の国際機関の決定を強制する世界警察軍について規定する。(以下略)
〔勧告四〕
2.国際司法裁判所は次に掲げる法律上の紛争を判決するために強制裁判権をあたえられる。
(A)二国間または二国以上の国家間法律上の紛争。
(B)憲章およびそれにもとずく法律の解釈、適用についての当事者間の紛争。

このほか同提案は世界議会の構成や権限についても規定している。

前にも述べたように今我々に必要なことはただ平和を叫ぶことではなく、将来の人類社会の具体的な在り方を人々に示すことである。世界連邦運動の使命もまさにそこにある、といえよう。