講演予稿
近年、日本国憲法の改正について多くの議論がなされているが、そこには国際法の発展という視点が欠落している。地球規模の問題が山積する現代社会において、一国の法体系と国際法の発展は不可分であり、補完しながら平和な社会をつくるべきである。そうした視点から世界連邦国際委員会では、「保護する責任」という国際法の新しい理念と、日本国憲法九条の関係についてアンケート形式で国立国会図書館から意見聴取を行なった。
その結果、「保護する責任」概念をストレートに政策課題とすることは現時点では難しいという結論を得た。国際社会という言葉がよく使われるが、国連の中核である国連安全保障理事会は実際のところ大国間のバランス・オブ・パワーで動いている現実があるからだ。
しかし他方では、具体的な政策課題を提案することができた。それは、人類共通の敵ともいえる大規模自然災害にその対象を限定し、かつ相手国に脅威を与えない形での国際協力であれば、「保護する責任」理念政策化に活路を見いだすことができるのではないか、という考え方である。この方向性に協力を得る目的で、2018年WFM世界大会において以下の大会決議を日本から発議し、採択された。
HRTF (Humanitarian Relief Task Force)決議:近年多発している地震・台風・津波等の、一国では対応が難しい大きな災害対策として、被災国/地域の同意または要請に基づくHA/DR(人道支援/災害救援)任務を行い、これを切れ目なく復興支援に繋げてゆく民軍共同の国際即応部隊をアジア太平洋地域に創設する決議。
国際法の発展に逆行するトランプ大統領の姿勢を背景に、国連の平和維持について2018年のWFM世界大会でもさまざまな議論が行われた。歴史的、文化的、地理的、経済的に独自の立場を持つ日本が、閉塞した国際法の発展に寄与し、その立場を日本国憲法で指し示すことが喫緊の課題ではないか。
*「保護する責任」は、様々な問題点を内包しながらも2005年の国連首脳会合成果文書によって概念の枠組みは国際的に認められたと言える。すなわち、国家主権には大規模な人権侵害から人々を守る責任が伴うこと、そして特定国家がこうした責任を果たす能力/意思を持たない場合、国際社会が人々の保護に責任を負うこと、さらに、そのような場合には国家は内政不干渉を主張できない、とする合意である。(中略)「保護する責任」が掲げる人々の保護を重視する考え方は、日本政府が積極的に主張している「人間の安全保障」と通底するものである。(川西晶大「保護する責任」とは何か 国立国会図書館「レファレンス」2007.3 p.23)
講師プロフィール:いぬづか ただし。1954(昭和29)年9月東京都生まれ。1980年、ダラス大学大学院経営学修士課程修了。2004〜2010年、参議院議員(長崎県選出)。2007年に日本国がICC(国際刑事裁判所条約)関連締結し、公約達成。2008年のアフガニスタン復興支援特別措置法案参議院可決に尽力。1995〜現在、メデュサンデュモンドジャポン世界の医療団設立会員。2010〜現在、プラネットファイナンス理事。2011〜現在、世界連邦運動協会国際委員長。著書『脱主権国家への挑戦』(アイランドボイス出版、2010)。
資 料 WFM-IGP世界大会2018 オランダのハーグで開催
(世界連邦Newsletter第649号より引用)
世界連邦運動の国際事務局(WFM-IGP)による世界大会(congress)が、2018年7月9日〜13日、オランダのハーグにて開催された。ハーグは、1899年と1907年に万国平和会議が開催され、第一次大戦後には常設国際司法裁判所、現在は国際司法裁判所が設置されている「平和の地」であり、WFMとしてもアメリカのNYとともに本部事務所がある場所でもある。
日本からは、MO(会員団体)として世界連邦運動協会から元参議院議員の犬塚直史執行理事・国際委員長、AO(協力団体)として世界連邦日本国会委員会から事務局員の谷本真邦(世界連邦運動協会執行理事・国際副委員長)が参加した。さらに、これまで世界連邦運動関係者とともに国際連帯税導入を目指して活動していただいた上村雄彦横浜市立大学教授が今大会を機に世界連邦運動協会に入会を確約して参加、世界連邦運動協会ユースフォーラム支部から京都大学大学院の竹田響氏も参加。また、インドにあるアジアユースセンターを代表して、国際事務局執行委員(エグゼクティブコミッティーのメンバー)でもある金光教泉尾教会長の三宅光雄世界連邦運動協会執行理事と同氏の令嬢で元WFM国際事務局員でもある三宅かおる氏が参加した。
今大会では、主たる会場であるBazaar of Ideaのほか、WFMが多くのNGOを取りまとめて国連に働きかけ設立に貢献した国際刑事裁判所を訪問した。
大会では多くのことが議論されたが、特に重要な点は組織変更である。大きな決議として、理事会(council)と世界大会(congress)に集まるメンバーがほぼ同じであるという理由で、これらを一つに統合し、理事会・理事制度は廃止、そのかわり今後は世界大会(congress)を2年に1度開催することとした。そして新たな世界の諸問題に対し、WFMの持つ国際的な性質を活用して、当局者や専門家の幅広い協力を推奨して取り組むTWGs(トランスワーキンググループ)を設立することを合意した。
大会の最終日には、会長(president)、大会長(chairperson of congress)、執行委員会委員長(chairperson of executive committee)をはじめ、各役員・執行委員を選出した。会長(president)には元カナダ外相で、保護する責任の提唱者の一人として著名なロイド・アクスワージ氏が再選されたほか、共同会長としてアルゼンチンの政治家、フェルナンド・イグレシアス氏が新たに選任された。また日本からも、元首相である海部俊樹世界連邦運動協会会長が次期大会へ向けた名誉大会長に推挙されたほか、副大会長に三宅光雄氏が選出され、さらに新たな執行委員として犬塚直史国際委員長と三宅かおる氏が選出された。
さらに日本の代表団から、以下の四つの提案を行い、全て採択・決議された。
決議1:世界連邦に向け民主的グローバルガバナンスのための国会議員グループを各国に作り、世界連邦国会決議をすることを求める。
決議2:日本等の北東アジアにおけるヒューマニタリアン・リリーフ・タスクフォースのイニシアチブ構築をWFMは支援する。
決議3:世界の国会議員に対し国連議員総会設置の決議を求める。
決議4:世界連邦実現に向け、持続可能で民主的グローバルガバナンスの強化をするために必要となる資金として、国際連帯税の導入を目指す。
続いて、2020年の次期世界大会は日本で開催したいという意向がアジアユースセンターから提案された。この提案は満場の拍手で受け入れられたが、正式決定は今後のWFM執行委員会においてなされる予定である。今大会で執行委員に選出された犬塚国際委員長は「今回の大会全体を通して日本の存在感が高まった。」と感想を語った。
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