P1 Pneumocystis carinii感染を疑う真菌性肺炎のハナゴンドウ1例○原陽子・澤田倍美・森田剛仁・島田章則(鳥取大学農学部獣医学科),田島木綿子・山田格(国立科学博物館),浅川弘(下田海中水族館) Fungal pneumonia (suspected to Pneumocystis carinii infection) in a stranded Risso's dolphin (Grampus griseus) Yoko Hara,Masumi Sawada,Takehito Morita and Akinori Shimada (Tottori University),Yuko Tajima and Tadasu Yamada (The National Science Museum),and Hiroshi Asakawa (Shimoda Foating Aquarium) [緒言] Pneumocystis carinii (以下P.carinii) は免疫機能の低下時に日和見感染する真菌であり,ヒトではHuman immunodeficiency virus (ヒト免疫不全ウイルス) に感染した際の感染の報告が多い.これまで海洋哺乳類における P. carinii 肺炎の報告はない.今回,漂着したハナゴンドウにおけるP. carinii 肺炎を疑う症例に遭遇したので報告する. [動物] ハナゴンドウ,オス,若齢,174p. [あらまし] 2003年1月10日,静岡県下田市吉佐美の海岸で死亡して漂着しているのが発見された.翌日,各種調査が実施された.後日,主要臓器のホルマリン固定材料が当教室に送付された. [剖検所見] 高度削痩.後頭骨は強い衝撃によると推察される骨折が広範囲に認められた.肺 は微小膿瘍の集簇を思わせる淡黄褐色を呈す径3cm大斑状部が点在していた. [組織所見] 多巣状性のリンパ球,マクロファージおよび形質細胞を主体とする炎症性細胞の浸潤が肺胞腔内および間質に認められた.また肺胞腔内には好酸性物質の滲出および泡沫状マクロファージの浸潤が認められた.PASおよびグロコット染色により好酸性物質および泡沫状マクロファージ内に好銀性の卵円形構造物が認められた. [診断] Fungal pneumonia (suspected to P. carinii infection) [考察] 病巣の分布,特徴的な組織所見および真菌の形態からP. carinii肺炎が疑われる.本例は漂着個体であり高度の削痩も認められていることから,何らかの原因で免疫低下状態にあり真菌性肺炎を発症した可能性が考えられる.今後,抗ヒトP. carinii抗体を用いた免疫組織化学的検索により確定診断を行いたい. |
P2 急性出血性腸炎が疑われたカワゴンドウの1例○江口麻衣子・ 澤田倍美・ 森田剛仁・ 島田章則 (鳥取大学農学部獣医学科), 中村雅之(マリンワールド海の中道) ,田島木綿子・山田格 (国立科学博物館) A suspected case of acute hemorrhagic enteritis in a Irrawaddy dolphin (Orcaella brevirostris) Maiko Eguchi, Masumi Sawada, Takehito Morita Akinori Simada (Tottori University), Masayuki Nakamura (Marine World umino-nakamichi), Yuko Tajima, and Tadasu Yamada (National Science Museum, Tokyo) [緒言] 飼育下の個体が食欲廃絶を示し, 急性経過をとり死亡するケースが多い. しかしその病因 (直接の死因, 背景にある疾患) は不明なことが多い. 今回, 食欲廃絶の後4日間の急性経過をとり死亡した1個体について, 臨床および病理学的に検討した. [動物] カワゴンドウ, オス, 若齢, 体長 205.2 cm [臨床事項] 2002年12月, マリンワールド海の中道水族館にて飼育中のカワゴンドウが,食欲廃絶を示した. 血液検査の結果, 軽度の脱水と白血球数の上昇が見られた. 抗胃潰瘍薬による治療が行われたが衰弱が進み4日後に死亡したため, 病理解剖に処された. 死亡後の肺と腸管の細菌検査の結果, 日和見感染菌であるProteus vulgarisとCitrobacter属が両者の臓器から検出された. 後日, 主要臓器のホルマリン固定材料が当教室に送付された. [剖検所見] 十二指腸膨大部直後より肛門から約1m手前に至る全粘膜が著しく赤色調を呈した. 赤色調領域の内容物は少量, 粘液性〜流動性で大半暗赤色を呈するが, 消化管下部では濃緑色であった. 気管から肺胞に至る気道には, 白色泡沫状物および赤色透明非粘調性液体が貯留していた. この時点で, 臨床所見と合わせて急性出血性腸炎と診断された. [組織所見] 肺に著明なうっ血水腫が認められた. 十二指腸から結腸に至る粘膜固有層と粘膜下組織にび漫性に著明なうっ血, 粘膜固有層に軽度の新鮮出血が認められた. 時折認められる変性, 壊死, 剥離を伴う腸陰窩上皮細胞の過形成, 部分的な好中球の浸潤および表層の粘膜上皮の好酸性所見 (壊死を示唆する) が認められた. [考察] 今回の症例は臨床および剖検時の所見から出血性腸炎が疑われた. しかし組織学的検索の結果,腸粘膜に顕著な炎症は認められず, 出血時によく認められる所見としての腸間膜リンパ節への血液吸収も認められなかったことから, ショック時の循環障害の所見であることが示唆された. 一方, 時折認められる変性, 壊死, 剥離を伴う腸陰窩上皮細胞の過形成, 部分的な好中球の浸潤および表層の粘膜上皮の好酸性所見からは, 粘膜上皮細胞傷害および生体の防御反応が起きていた可能性が示唆される. よってこの症例の腸粘膜の変化について, @ 死戦期におけるショック状態に見られる血液の内臓性貯留 (visceral pooling) A 甚急性の出血性腸炎 B @とAの両者 の可能性が考えられる. また, 直接の死因は肺のうっ血水腫と思われる. 臨床と病理の検討を重ね, 記録していくことが今後の病態の解明に重要と思われる. |
P3 腸重積のイロワケイルカ 1 例○福永尚輝・中村耕太郎・澤田倍美・森田剛仁・島田章則 ( 鳥取大学農学部獣医学科 ),岡村博美 ( 宮島水族館 ) Intussusception in a Commerson's dolphin ( Cephalorhynchus commersonii ) Naoaki Fukunaga, Kotaro Nakamura, Masumi Sawada, Takehito Morita, and Akinori Shimada ( Tottori University ), and Hiromi Okamura (Miyajima Public Aquarium) [緒言] イロワケイルカはフォークランド諸島,ケルゲレン島周辺および南アメリカ大陸南部の沿岸に棲息しているセッパリイルカ属の一種で,大きいもので体長約 1.7 m になる.今回,飼育下のイロワケイルカにおける腸重積の症例に遭遇したのでここに報告する. [動物] イロワケイルカ,雄,4 歳 9 ヶ月齢,体重 34 kg [臨床事項] 2002 年 3 月 11 日までは元気,食欲ともにあり問題はなかった.翌 12 日の朝に浮遊状態で潜ることができなくなっており,プールの底に血塊が見つかった.外傷は見られなかった.翌 13 日の早朝に死亡し,14 日に当教室で病理解剖検査を行った. [剖検所見] 肛門内に血液および血餅が付着していた.約 1 リットルの血様腹水が貯留していた.腸管遠位端より約 1 m の部位において重積が見られた.大きさは約 15 cm で,内部に約 120 cm の腸管を容れていた.重積した腸管には出血,壊死が見られ,大豆大の穿孔が 2 ヶ所形成されていた.重積部の前後約 1 mの腸粘膜は赤褐色を呈し,暗赤褐色液状物が中等度に貯留していた.また,腸重積部の腸間膜に出血が見られた. [診断] 腸重積 [考察] 本例の死因は腸重積であったと考えられる.他の臓器に著変は認められなかった.本例にはこれまで病歴はなく,異常が認められてから約 1 日という経過で死亡しており,何らかの原因で急性に重積が発生したものと考えられる.海洋哺乳類における腸重積は報告が少なく,稀な症例と考え報告した. |
P4 ハンドウイルカの Botryomycosis の 1 例○澤田倍美・中村耕太郎・森田剛仁・島田章則 (鳥取大学農学部獣医学科), 田島木綿子・山田格(国立科学博物館),浅川弘 (下田海中水族館) Botryomycosis in a captive bottlenosed dolphin (Tursiops truncatus). Masumi Sawada, Kotaro Nakamura, Takehito Morita, Akinori Shimada (Tottori University), Yuko Tajima, Tadasu Yamada (The National Science Museum), and Hiroshi Asakawa (Shimoda Floating Aquarium) [緒言] 海洋哺乳類における Botryomycosis または Staphylococcus aureus 感染症の報告は少ない.今回,飼育下のハンドウイルカにおける Botryomycosis 症例に遭遇したので報告する. [動物] ハンドウイルカ,メス,成獣,255.7 cm. [臨床事項] 2000 年 3 月水族館で死亡し,病理解剖に処された.後日,主要臓器のホルマリン固定材料が当教室に送付された. [剖検所見] 肝臓は全葉に径 5 mm 大に至る膿瘍が多発し,門部には径9 × 5 × 1 cm 大の境界不明瞭な黄白色膿瘍が 1 個認められた.脾臓には脾全体の約 3 分の 2 を占める黄白色膿瘍が見られた.肺左葉辺縁部に小豆大に至る膿瘍が密発し,左葉中央部には径15 × 8 × 7 cm大の黄白色膿瘍1 個認められた. [組織所見] 化膿性肉芽腫が肝全域に多発していた.病巣内には細菌塊を伴い,好中球やマクロファージの浸潤が多数認められた.また,病巣を取り囲む結合組織の増生も観察された.好塩基性に染色される多数の球菌は,周囲を好酸性のときに均質な物質によって取り囲まれていた.グラム染色でこれらの細菌は陽性であった.グラム染色陽性であったことから Staphylococcus aureus 感染を疑い,抗 Staphylococcus aureus 抗体を用いた免疫染色を行ったところ,塊状を呈する細菌塊の他,マクロファージ内の菌体も陽性反応を示した.脾臓および肺に見られた膿瘍の組織像は肝臓と概ね同様であった. [診断] Multiple pyogranuloma due to Staphylococcus aureus infection (Botryomycosis) [考察] 海洋哺乳類における Botryomycosis または Staphylococcus aureus 感染症の報告は少ない.細菌分離なされなかったが,免疫組織化学的検索により本症例は Staphylococcus aureus 感染であることが示された.Botryomycosis は「細菌,真菌,寄生虫の周囲に好酸性の沈着物を伴う化膿性肉芽腫性炎」と定義付けられている.本症例は Botryomycosis に特徴的な細菌塊を伴う化膿性肉芽腫性炎であったことから上記のように診断した. |
P5 ハンドウイルカの肺出血および肺水腫の1例○川村奈津子・澤田倍美・森田剛仁・島田章則(鳥取大学農学部獣医学科),中村雅之(マリンワールド海の中道) Pulmonary hemorrhage and edema in a captive bottlenosed dolphin (Tursiops truncatus ) Natsuko Kawamura, Masumi Sawada, Takehito Morita Akinori Shimada (Tottori University), and Masayuki Nakamura (Marine World umino-nakamichi) [緒言] 海生哺乳類の病理学的検索を多く経験すると,本来の病気の原因は不明だが,その病理所見から溺死が示唆される症例が多い.今回,このような症例の1 例を紹介する. [動物] ハンドウイルカ,オス,2 歳4 ヶ月,235.0 cm [臨床症状] 2002 年 9 月 21 日摂餌がとまり,体温が36.9 度とやや上昇した.薬剤を投与し,一時改善したが9 月 30 日再び同症状を呈したため取り上げ検査を行った.採血時に嘔吐(母乳?)および採便検査にて多量の血便が認められた.薬剤を投与したが翌日 10 月1 日プール底で死亡しているのが発見され,病理解剖に処された. [剖検所見] 肛門から血液を混じる黄褐色液状内容物が軽度に流出していた.腸管後半部には桃色の液状内容物(軽度に血液を混じる)が貯留していた.血様腹水が 300 ml 貯留していた.気管・気管支腔内には赤色泡沫状物が充満していた.肺は全葉に亘り彌慢性中等度の肺出血がみられた. [組織所見] 腸管には粘膜上皮,主に絨毛先端部において球菌および桿菌(エンテロトキセミア?死後桿菌?)が多数存在していた.炎症性細胞の浸潤は稀であった.肺には著明な彌慢性出血,水腫およびうっ血がみられた.気管支腔内および肺胞腔内に細菌が散在していた. [診断] 肺出血および肺水腫 [考察] 臨床症状および剖検所見から敗血症,出血性胃腸炎などが疑われる.しかし,組織学的検索では死後変化が強いこともあり,それらを示唆する所見は得られなかった.著明な変化として,肺出血および肺水腫が認められた.これらは溺死を示唆する所見である.このように海生哺乳類においては本来の病気の原因は不明だが,最終的に溺死に陥ったと考えられる症例は多い.海生哺乳類では個体によって,臓器障害が死に至るほど重度でなく,病理学的に検索されにくい程軽度であっても溺死に至ってしまうのかもしれない.今後,飼育下の個体に関しては生前の検査材料を有効に使うことが病因の解明に繋がるかもしれない. |
P6 Staphylococcus aureus による日和見感染症をおこしたカマイルカ 1 例○東中 翠・澤田倍美・森田剛仁・島田章則(鳥取大学農学部獣医学科),伊東隆臣(大阪・海遊館) Opportunistic infection of Staphylococcus aureus in a captive pacific white-sided dolphin. Midori Higashinaka, Masumi Sawada, Takehito Morita, Akinori Shimada (Tottori University), and Takaomi Ito (Osaka Aquarium Kaiyukan) [緒言] 海洋哺乳類における Staphylococcus aureus 感染症の報告は少ない.今回,飼育下のカマイルカにおいて S.aureus による日和見感染症をおこした症例に遭遇したので報告する. [動物] カマイルカ,メス,成獣(飼育期間 10 年),体長 0.94m [臨床事項] 2002 年 4 月 2 日より元気食欲低下していた.同月 15 日呼吸臭があり血液検査にて白血球数の上昇を確認した.同月 20 日呼吸困難により死亡し,病理解剖に処された.後日,主要臓器のホルマリン固定材料が当教室に送付された. [剖検所見] 肺は全葉が充血しており,白色膿瘍が多発していた.心嚢膜左側に 12×8o 大の白色膿瘍が 1 個見られた.左右鼻腔内,左胸腔内および心嚢内に絮状物が認められた. [組織所見] 肺は気管支および肺胞腔内に高度の化膿性炎症性細胞の浸潤およびその壊死が認められた.軽度の線維芽細胞の増殖も認められた.壊死組織中に多数の好塩基性球菌塊が見られた.好塩基性に染色される多数の球菌は,グラム染色で陽性を示した.グラム染色陽性であったことから S.aureus 感染症を疑い,抗 S.aureus 抗体を用いた免疫染色を行ったところ,陽性反応を示した.脾臓はび慢性に化膿性炎および濾胞中心性の壊死が見られた.脾臓ではS.aureus 陽性像はみられなかった. [診断] S.aureus (黄色ブドウ球菌)感染,出血および線維素析出を伴った亜急性化膿性気管支肺炎 [考察] 海洋哺乳類における S.aureus 感染症の報告は少ない.細菌培養はなされなかったが,免疫組織化学的検索により本症例は S.aureus 感染であることが示された.S.aureus は常在菌として知られており,健康なイルカの鼻腔からも分離されることがある.本例は,何らかの感染症やストレス等により一般状態が悪化し,発症したと考えられる.その他の感染症を示唆するような所見は見られなかった.また,急性脾炎の所見から,本例は敗血症の初期段階であった可能性が示唆された. |
P7 カマイルカの壊死性子宮内膜炎の1例○道前喜子・森田剛仁・澤田倍美・島田章則 (鳥取大学農学部獣医学科),諏訪有紀・大辻功・松崎健三 (しまね海洋館) Necrotizing endometritis in a Pacific white-sided dolphin (Lagenorhynchus obliquidens) Yoshiko Michimae,Takehito Morita,Masumi Sawada,Akinori Shimada (Tottori University),Yuki Suwa,Isao Otsuji, and Kenzo Matsuzaki (Shimane Kaiyukan) [緒言] 子宮内膜炎は子宮疾患で最も発生が多く,各種の家畜で知られている.海生哺乳類では子宮内膜炎の報告例が乏しく,原因および発生率など詳細は不明である.今回,壊死性子宮内膜炎の漂着イルカを病理学的に検索する機会を得たので報告する. [動物] カマイルカ,メス,体長 215cm,高齢 (推定) [臨床事項] 2002 年3 月島根県江津市波子町の砂浜に死着した.歯の欠落個所が多数認められたことから老齢個体であることが推定された.病理解剖に処された後,子宮,卵巣,肺および左側胸壁のホルマリン固定材料が当教室に送付された. [剖検所見] 生殖口から臍帯が約15cm露出し,乳頭からの乳の流出が確認された.腹腔内には血様腹水が高度に貯留していた.右子宮角破裂,子宮粘膜の反転および腹腔内への脱出が認められた.子宮粘膜には破裂部を中心に高範囲に壊死・出血が認められた.腸間膜および大網の壊死および充血も見られた.左側卵巣には15個の白体および1個の黄体が存在していたが,右側卵巣は表面が平滑であった.胸腔では,左側壁側胸膜の一部 (多数) および肺 (1~2個) に白色結節が認められた.白色結節は硬度に富み,最大でそら豆大であった. [組織所見] 右子宮角では,粘膜上皮の広範囲の壊死・出血および細菌 (球菌) 塊を伴う中等度び慢性内膜炎が認められた.細菌塊はグラム染色陽性であった.胸腔内に多発していた白色結節では,一層の中皮細胞に囲まれる嚢胞を多数形成しており,嚢胞はさらに結合組織に囲まれていた.嚢胞内には粘液性物質を認め,この物質はアルシアンブルー染色陽性であった (おそらく中皮細胞が産生するヒアルロン酸). [診断] 1.グラム陽性球菌感染による壊死性子宮内膜炎および腹膜炎 2.胸膜および肺における多嚢胞性中皮腫 [考察] 本症例では,壊死性子宮内膜炎によって子宮壁の破裂が生じ腹膜炎に波及した可能性が高く,これが漂着・死因に関与しているものと考えられた.一般に,家畜の子宮内膜炎は細菌感染に起因するものが多い.本症例の場合も,子宮の病巣にグラム陽性球菌が確認され,これが炎症の原因であると推察された.しかし,細菌分離を行っていないため菌の特定はできなかった.なお,病理解剖の実施により最近まで妊娠していたことが推定されたが,破裂部は妊娠していた子宮角とは反体側であり,子宮破裂と妊娠との関連は乏しいと考えられた.また,偶発的に発見された多嚢胞性中皮腫は良性疾患であり,本個体の漂着・死因との関連は乏しいと判断した. |
P8 漂着した老齢のスナメリに見られた病理学的所見松山慶太・澤田倍美・前田実生・森田剛仁・島田章則 (鳥取大学農学部獣医学科), 滝 導博(神戸市立須磨海浜水族館) A variety of pathological findings observed in an aged stranded finless porpoise (Neophocaena phocaenoides) Keita Matsuyama, Masumi Sawada, Mio Maeda, Takehito Morita, Akinori Shimada (Tottori University), and Michihiro Taki (Suma Aqualife Park) [動物] スナメリ, オス, 老齢 [臨床事項] 1998年5月4日, 沿岸に生息していたと思われるスナメリが兵庫県西宮市甲子園に漂着しているのを発見される. 後日主要臓器ホルマリン固定材料が当教室に送付された. [剖検所見] 頭背部から頚部に裂傷が認められた(スクリューによるもの?). 肺には寄生虫性結節および線虫が, 肺門リンパ節は炭紛沈着が認められた. 肝臓には寄生虫性結節および吸虫が認められた. 一側の精巣の実質に限界明瞭な結節が多数認められた. 腸管漿膜面に結節が一つ認められた. [組織所見] 肺において, 気管支腔内と粘膜固有層に炎症細胞(特に形質細胞)が浸潤し,高度の線維化していた. 肝臓では, 胆管内に好酸球で囲まれた寄生虫性肉芽腫が見られた. 腎臓では, 局所の糸球体硬化症が見られた. 精巣では, 精上皮細胞の腫瘍性増殖と, それとは分画して間細胞の腫瘍性増殖が見られた. 副腎皮質(?)では皮質細胞(?)の濾胞性過形成がみられた. 腸管の結節は血管内皮細胞の腫瘍性増殖巣であった. 肺および肺門リンパ節に炭紛沈着がみられた. [診断] 1. 慢性気管支肺炎(原因は寄生虫?) 2. 寄生虫感染による慢性胆管炎 3. 腎糸球体硬化症 4. 精上皮腫及び間細胞腫 5. 副腎の濾胞性過形成 6. 腸管における血管腫 7. 肺および肺門リンパ節における炭紛沈着 [考察] 本症例は, 剖検時の観察で歯が磨り減っていたため老齢であると考えられた. 組織検索結果でも腫瘍の発生, 糸球体硬化症, 他全身の臓器の所見より老齢の個体であると考えられる. 肺, 肝臓において寄生虫の感染が原因と思われる病変が強く見られたこと, 加齢により様々な病変が見られたことから全身の状態は悪く, 衰弱していたと思われる. 死因については,頭部の裂傷,全身の病変による衰弱が考えられる. 頭部の裂傷は生前,生後のいずれかは不明. |
P9 鯨類の呼吸器系臓器を用いた大気汚染の生物学的モニタリング○木村朋美・澤田倍美・島田章則・森田剛仁 (鳥取大学農学部獣医学科), 田島木綿子・山田格 (国立科学博物館) Biological monitoring of the air pollution with the use of respiratory organs of whales. Tomomi Kimura, Masumi Sawada, Akinori Shimada, Takehito Morita (Tottori University), Yuko Tajima, and Tadasu Yamada (National Science Museum, Tokyo) [緒言] 水銀は大気汚染物質のひとつとして知られている. 呼吸により取り込まれ肺組織およびその付属リンパ節中に蓄積した水銀の濃度は大気汚染の指標となり得る. また, 年々大気汚染は深刻化しており海洋を介して他の大陸にも拡がっていると推察されている (越境大気汚染). 本研究の目的は鯨類の肺門リンパ節の水銀による大気汚染のモニタリングの生物学的材料としての意義について検討することである. [材料・方法] ハンドウイルカ5 例 (飼育3 例, 太平洋岸漂着2 例), スナメリ4 例 (瀬戸内海岸漂着2 例, 太平洋岸漂着2 例), オオギハクジラ 3 例 (日本海岸漂着) およびカズハゴンドウ3 例 (太平洋岸漂着) の肺門リンパ節中の水銀濃度を還元気化原子吸光法によって測定した. [結果・考察] カズハゴンドウの肺門リンパ節中の水銀濃度は他種のそれより有意に高かった. 漂着場所別に検索した結果, 太平洋岸に漂着した鯨類において水銀濃度が高い傾向にあった. また, ハンドウイルカについて検索した結果, 飼育および漂着個体間での水銀濃度に有意差は認められなかった. これらの結果より, 肺門リンパ節内の水銀濃度が検索した鯨類の品種や生息地域により異なる可能性が示唆された. 今後は, 吸入された金属粒子の肺から肺門リンパ節への移行パターンの確認や水銀以外の金属種の測定なども含め, 症例数を増やし, 呼吸器系組織の金属分析の大気汚染の指標としての意義について検討したい. |
P10 日本近海に棲息するハンドウイルカ(Genus Tursiops)の分布と遺伝的多様性―ミトコンドリアDNAを指標とした解析―○角田恒雄(神奈川大,国立科学博物館),小木万布(三重大学大学院),菱井透(御蔵島イルカ協会),山田 格(国立科学博物館) Distribution and Genetic variability of "Bottlenose Dolphins" (Genus Tursiops) in the Japan waters based on mitochondrial DNA sequences. Tsuneo KAKUDA (Faculty of Science, Kanagawa University, National Science Museum, Tokyo), Kazunobu KOGI (Graduate School of Mie Univ.), Toru HISHII (Mikurajima Iruka Kyokai), and Tadasu K. Yamada (National Science Museum, Tokyo) 【はじめに】 マイルカ科に属する"ハンドウイルカ"は世界各地に棲息が確認されており,近年まで多く研究者の間で,Tursiops truncatusの1種からなるとの説が有力であった.しかし1990年以降,種判別において形態,生物地理といった従来の基礎生物学的データに加え,DNAデータを利用する手法が報告されはじめ, Rice(1998)はミトコンドリアDNAの比較データから,従来のT. truncatusよりも小型で成体になると腹面に斑点の現れるハンドウイルカをTursiops属の第2の種,T. aduncusとして表記している. 日本沿岸には各所で"ハンドウイルカ"の棲息が報告されており,truncatus型以外にも,一部の地域でaduncus型(ミナミハンドウ)の報告がなされている.本研究では東京都御蔵島周辺海域に定住する"腹部に斑点の現れるハンドウイルカ",日本海沿岸に漂着したハンドウイルカ,とともに,太平洋沿岸のハンドウイルカから採取した組織サンプルからDNAを抽出し,日本近海に棲息する"ハンドウイルカ"の分布と遺伝的多様性を推定した. 【試料と方法】 御蔵島周辺海域に定住するイルカ2個体,日本海沿岸産ハンドウイルカ4個体,太平洋産ハンドウイルカ8個体,計14個体の組織試料(皮膚)を使用した.試料は冷凍もしくは99 %エタノール中で保管されていたものを用いた.試料から全DNAを抽出し,ミトコンドリアDNAのDループ一部領域を決定し,各個体間の比較を行った.またtruncatus型,aduncus型の指標として,台湾沿岸に同所的に棲息するハンドウイルカ2型の塩基配列(Wang et al ., 1999)を使用した. 【結果と考察】 全14個体,約300塩基対の比較を行った結果,御蔵の2個体では全ての塩基対が一致した.御蔵の個体と台湾近海のaduncus型との比較では,1〜8箇所の塩基置換が検出された.これに対し,日本海沿岸産4個体,太平洋産8個体と御蔵の個体との比較では,22〜24の塩基置換と1塩基の欠失が検出され,日本海沿岸産の個体,太平洋産の個体と台湾近海のtruncatus型では27箇所の塩基置換が検出されたが,欠失は検出されなかった.また日本海沿岸産の個体に特有な塩基置換も検出されなかった.以上の結果より分子系統樹を作成したところ,御蔵の2個体は台湾近海のaduncus型の個体とクラスターを作り,truncatus型とは明瞭に分岐した.一方,日本海沿岸産の個体,太平洋産の個体は,台湾近海のtruncatus型とクラスターを作り,日本海沿岸産の個体は一つのクラスターにならず,太平洋産ならびに台湾近海の個体の間に位置した.これらの結果は,1)腹部に斑点をもつ御蔵島の個体は台湾近海のaduncus型のハンドウイルカと同じ系統に含まれることを示唆し,2)日本海沿岸に棲息するハンドウイルカはtruncatus型と同じ系統であり ,比較的高い遺伝的多様性があることを示唆している可能性がある.しかしながら本研究で扱った日本海沿岸のハンドウイルカは僅か4個体であり,遺伝的な多様性について論じるためにはより多くの個体解析が必要である.今後九州各地で観察されている各ハンドウイルカの集団も含め,さらに詳細な調査を進めていきたい. |
P11 オウギハクジラの乳汁成分の特徴○古村晴美・箸方麻希子・吉田 剛・神崎文次(財団法人日本乳業技術協会),細野明義(信州大学大学院農学研究科),山田 格(国立科学博物館動物研究部) Characteristics of composition of Stejnerger's Beaked Whale (Mesoplodon stejnegeri) milk. Harumi Komura, Makiko Hashikata, Takeshi Yoshida, Bunji Kanzaki (Japan Dairy Technical Association), Akiyoshi Hosono (Graduate School of Agriculture, Shinshu University), and Tadasu K. Yamadan (Department of Zoology, National Science Museum) 平成14年4月29日に石川県鳳至郡能都町間島の海岸で網に絡まって動けなくなったオウギハクジラ(Mesoplodon stejnegeri)が採取された.翌朝死亡が確認され,剖検のためのとじま臨海水族館経由で国立科学博物館に保冷車により氷蔵状態で搬送された.さらに搬入時に分泌された乳汁は凍結状態で財団法人日本乳業技術協会に輸送され,成分分析及び脂質特性試験に供された.測定は,水分:直接乾燥法(99±1℃),脂質:Rose-Gottlieb法,タンパク質:Kjeldahl法,灰分:直接灰化法(550℃),ミネラル:原子吸光法,脂質特性:ガスクロマトグラフィーによった. これまでクジラの乳汁組成に関する報告例は少ないが,マッコウクジラ(Physeter macrocephalus),コクジラ(Eschrichtius robustus),シロナガスクジラ(Balaenoptera musculus),ナガスクジラ(Balaenoptera physalus),ザトウクジラ(Megaptera novaeangliae),イワシクジラ(Balaenoptera borealis)等に関するものがある. 一方,オウギハクジラ(Mesoplodon stejnegeri)の乳汁については,1984年にUllreyらが座礁した個体から採取した乳汁について調べた報告があるのみであるが,それによるとタンパク質:16.7%,脂質:17.3%,乳糖:0%,灰分:1.2%となっており,タンパク質と脂質の含量が高く,炭水化物含量が低い,クジラの乳汁成分組成の一般的特徴を有している. そこで我が国では初めての例として,オウギハクジラの乳汁成分組成に関する知見を得ることを目的として,上述の方法を用いて成分分析等を試みた. その結果,今回分析したオウギハクジラの乳汁の成分は,タンパク質:11.7%,脂質:35.1%,,灰分:0.8%であり,Ullreyらによる報告値に比較して脂質の含量が高く,約2倍の数値であった. ミネラルについてはCa:65 mg/100g,Na:180 mg/100g,K:95 mg/100g,Mg:6 mg/100g,Fe:3.2 mg/100g,Zn:0.3 mg/100gの測定値が得られたが,これをUllreyらによる数値と比較した場合にはCaが低く,約1/3の値であった. 脂肪酸組成に関しては,今回のオウギハクジラの乳汁に関する測定結果ではオレイン酸が約半分を占め,これにパルミチン酸,パルミトレイン酸,ミリスチン酸を合わせたものが全脂肪酸の82.4%に達し,Jenness and Odellによるマッコウクジラの乳汁に関する測定結果と同様の傾向が確認された. 脂肪酸組成と同様に脂質の特性を表す指標である,トリグリセライドパターンについては牛乳とはかなり異なる特徴が示されたが,この特徴が海棲哺乳類の乳汁に共通して見られる特徴であるか否かについては,大いに興味の持たれるところである. 陸上に棲息する哺乳動物の乳汁成分組成と動物分類学上の位置との関係については種々の考察がなされ,Jennesらは乳汁の成分組成を動物の生物的特徴,特に子の育て方の違いから分類を試みているが,海棲哺乳類についても多数の試料についての分析結果が集積されることにより種々の考察が可能となることが期待される. |
P12 第9回蔚山くじら祭り参加報告平口哲夫(金沢医科大学),蛭田 密(Aquatic Animal Consulting) A field report of the 9th Ulsan Whale Festival. Tetsuo Hiraguchi (Kanazawa Medical University), and Hisoka Hiruda (Aquatic Animal Consulting) 2003年5月30日(金)〜6月1日(日),韓国蔚山広域市チャンセンボ海洋公園と蔚山大公園で開催の第9回蔚山くじら祭りに参加した体験をホリスティック(全体論的)な視点から報告する. 蔚山広域市南区主催・蔚山くじら祭り推進委員会主管のもとに開催される当イベントは,基本計画案によれば「クジラと共に!蔚山と共に」をテーマに,以下のような開催目的を掲げている. 1)世界的な文化遺産である盤亀台岩刻画によって示される先史時代捕鯨の視点から蔚山の捕鯨史を見直し,その文化的価値と象徴性を国内外に認めてもらう. 2)地域の鯨関連の観光資源を通じ,「蔚山くじら祭り」を蔚山の代表的な祭りから世界的な祭りへと発展させる. 韓国慶尚南道蔚州郡彦陽面大谷里の盤亀台岩刻画は,韓国においても先史時代に捕鯨が行われていたことを示しており,きわめて重要であることから,韓国の国宝に指定されている.しかし,通常はダムに水没しており,冬の乾季に水位が下がったときに水面に顔を出す状態であることから,保存上の問題が指摘されている.そこで,この岩刻画をユネスコの世界遺産に指定する運動を展開することにより,抜本的な保存対策がとられるようにしたいと演者らは考えている. 一方,明治時代に日本の影響で開始された韓国捕鯨は,第二次世界大戦が終わって韓国が独立してからも蔚山を基地として捕鯨が継続され,IWC(国際捕鯨委員会)により捕鯨禁止されてからは捕鯨再開の運動が蔚山でも行われるようになった.その一環として9年前から蔚山くじら祭りが開催されるようになり,それとともに盤亀台岩刻画は学術ばかりでなく観光・地域興しの点でも注目されるようになった. 以上のように新たな様相をみせている韓国社会における鯨類・捕鯨関係の諸事情を把握するとともに,盤亀台岩刻画の保存対策を検討するために現地調査を行うことにした.しかしながら,蔚山に到着した5月30日(金)から31日(土)にかけて台風の影響で悪天候に見舞われ,初日チャンセンボ海洋公園で予定されていた開場式・パレード,ならびに2日目に予定されていた盤亀台見学ツアーは,ともに中止となった.結局,今回,鯨類・捕鯨関係で新たに報告することができるのは,初日,16:40から開催された蔚山広域市南区庁6階大講堂でのレセプション,19:00から開催されたチャンセンボ海洋公園でのアトラクション,ならびにこれに付随する若干の見聞にとどまる. 盤亀台岩刻画の見学ならびにこの保存等についての意見交換については,岩刻画が水面に顔を出す冬季にあらためて蔚山を訪問して実現したいと思う. なお,今回の日本訪問団は,日本捕鯨協会組,共同船舶社内旅行組,東京組,大阪組,下関組,九州組,有川町組,以上9組で構成されている.平口が仲間入りした大阪組は,5月30日(金)に大阪(関西空港)発7:45のJL967便で釜山着,ツアーバスで釜山から蔚山に向い,そこで蛭田と合流,16:40分開催のレセプションならびに19:30分からの開幕式に出席,蔚山の現代ホテルに宿泊.翌31日,ツアーバスで慶州を見学後,釜山のグランドホテルに宿泊.6月1日,釜山発12:00のJL968便で大阪(関西空港)へという日程となった. |
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