○進藤順治(新潟市水族館)・中村幸広(上越市立水族博物館)・箕輪一博(柏崎市立博物館)・青柳 彰(寺泊町立水族博物館)・北見健彦・石見喜一(相川町)・鶴田教明(新潟日報)・本間義治(新潟大医3解)
新潟県における鯨類の漂着, 混獲および迷入に関する記録は本間(1981,1990),本間ら(1981,1993,1994,1995,1996,1997,1998,1999),箕輪ら(2000)によって報告され漂着原因や傾向の一部が明らかにされつつある.今回は1999年6月から2001年5月の2年間に新潟県沿岸に漂着・混獲された鯨類について,演者らのフィールド調査と鯨研ストランディングレコードを参照して記録を収集し,過去の漂着記録と対比させ日本海における漂着鯨類の季節変化や漂着傾向について検討した.
また目撃情報の一部と数例の鰭脚類の漂着が見られたので付け加えた.
1999年6月以降の新潟県における鯨類の漂着・混獲は2000年5月までに14例確認され,
死亡漂着が11例, 混獲が3例であった.
死亡漂着の内訳はオウギハクジラが4例,カマイルカ2例,ミンククジラ2例,ネズミイルカ,バンドウイルカ,アカボウクジラと思われるものが各1例であった.
混獲はすべてミンククジラであった.
鯨類の漂着季節は冬季から春季に多い傾向が見られた. そのうちオウギハクジラの漂着はすべて冬から春にかけての季節に集中し,
従来の漂着時期と一致していた. このことはオウギハクジラの季節的な分布変化に起因しているものと思われた.
ミンククジラは混獲と漂着の両方見られ, その時期は冬季に集中していた.混獲後,
鮮度のよいものは地元消費と報告されていた.
鯨類の目撃は, 2001年3月〜5月にかけて新潟県沿岸でカマイルカと思われるイルカの大群が多数目撃されたが,
実際届けられた報告は少ない.
鰭脚類では, キタオットセイ1例とゴマフアザラシ3例の上陸が確認された.
これらの漂着記録は今後, 累積漂着記録として整理検討することで日本海における鯨類の生息状況,
季節的移動・分布など生態が明らかにされていくものと考えられる.
|
高橋 勲(のとじま水族館)
当館では1982年の開館以来石川県沿岸に来遊する魚類・海産哺乳動物等を対象に種々の調査,研究を行っている.鯨類の漂着・迷入及び入網の記録もその1つで,今回は第10回大会(桶田,
1999)で報告以降,1999年4月から2001年5月までの期間に確認した漂着鯨類について報告する.
能登半島沿岸では,以前からカマイルカの漂着が多いことは過去のデータからも明らかになっている.しかし近年,オウギハクジラの漂着が増加している傾向にあり,これは日本海沿岸地域に共通したものと言える.こうした漂着個体の調査データの蓄積によって謎とされるオウギハクジラの生態が解明されることを期待したい.
またここ数年,行政機関からはこうした調査・研究に対する理解も得られつつあり,今後水族館・行政・関係機関の更なるネットワークづくりも重要となるだろう.
表 能登半島沿岸における1999.4〜2001.5の鯨類漂着・迷入及び入網の記録
| No. |
年月日
|
種類
|
体長(p) |
性別 |
漂着地点
|
備考
|
| 1 |
1999.5.5 |
カマイルカ |
190 |
不明 |
七尾市三室町 |
漂着・死亡 |
| 2 |
2000.2.22 |
バンドウイルカ |
235 |
オス |
穴水町前波 |
刺し網に絡まり死亡 |
| 3 |
2000.3.9 |
カマイルカ |
215 |
オス |
門前町黒島築港 |
漂着・死亡 |
| 4 |
2000.3.17 |
オウギハクジラ |
510 |
メス |
輪島市大沢町 |
漂着・死亡・解剖後科博へ移送 |
| 5 |
2000.3.14 |
ハナゴンドウ |
270 |
メス |
七尾市庵町 |
沖合の定置網に入る・放流 |
|
|
ハナゴンドウ |
230 |
メス |
〃 |
〃 |
| 6 |
2000.4.4 |
オウギハクジラ |
483 |
メス |
羽咋郡富来町 |
漂着・死亡・解剖後科博へ移送 |
| 7 |
2000.4.4 |
オウギハクジラ |
468 |
オス |
七尾市大野木町 |
漂着・死亡・解剖後科博へ移送 |
| 8 |
2000.5.10 |
オウギハクジラ |
490 |
オス |
内浦町小木 |
漂着・死亡 |
| 9 |
2000.5.23 |
カマイルカ |
96 |
オス |
能都町小浦 |
漂着・死亡(当館の記録では最小) |
| 10 |
2001.1.22 |
ハナゴンドウ |
345 |
メス |
穴水町内浦 |
漂着・死亡(科博へ移送) |
| 11 |
2001.1.30 |
オウギハクジラ |
510 |
オス |
志賀町赤住 |
漂着・死亡 |
| 12 |
2001.2.21 |
バンドウイルカ |
200-230 |
不明 |
能登島町曲(水族館前) |
湾内迷入・数日後泳ぎ去る |
| 13 |
2001.4.9 |
オウギハクジラ |
480 |
オス |
志賀町安部屋 |
漂着・死亡(解剖後科博へ移送) |
| 14 |
2001.4.19 |
オオギハクジラ |
490 |
メス |
七尾市東浜港 |
漂着・死亡 |
| 15 |
2001.5.2 |
ハナゴンドウ |
275 |
メス |
能登島町野崎 |
漂着・死亡 |
| 16 |
2001.5.8 |
ハナゴンドウ |
250 |
不明 |
羽咋市千里浜 |
漂着・生存・放流 |
|
○中村雅之,高司哲也,塚田仁次(海の中道海洋生態科学館)
海の中道海洋生態科学館では1989年の4月開館以来,九州沿岸の魚類・海生哺乳類の調査研究を継続している.1998年には北九州市藍島において「スナメリウォッチング」事業を行っている漁船で遊泳するスナメリを観察した.1999年より地元藍島小学校において環境教育のテーマとして「スナメリ観察授業」が始まった.藍島小学校は以前より「地域の教材」に根ざした体験学習に熱心に取り組んでおり,生徒達の父兄や地域漁協の協力の下,スナメリに「出会う」ことが契機となって島の自然や環境を考える学習活動が活発に行われている.観察授業には年間4回当館職員が1999年から講師として参加し,スナメリ乗船観察・海洋観察(水温・透明度測定・プランクトン採集等)を行い観察授業後は小学校で観察のまとめとスナメリについての講話を行ってきた.当館が行ったスナメリ調査の記録とスナメリ観察会の様子を報告する.
|
高橋景子(日本民族学会)
「北方」地域は,極北を中心とした,寒冷な気候の影響を受ける地域である.緯度によって単純に線引きすることはできないが,北海道の位置する北緯40〜45度以北を北方地域と言うことができよう.自然環境は,海岸や内陸,河川,湖沼,島嶼,ツンドラ,森林と多様である.植生から見ると,ツンドラ地域,北方針葉樹林帯が主であり,これに温帯性落葉樹林帯を加えることができる.
約1万年前,人類が北方地域に急速に拡大したのは,狩猟道具の発達によって寒冷地での大型哺乳類狩猟が可能になり,豊富な食料の獲得ならびに防寒性の高い毛皮製衣類の利用が実現したことによる.
北方地域には,数多くの壁画があることが知られている.動物の壁画が多く,これは狩猟の祈願であったとも言われている.海岸に近い場所では,鯨類の壁画も発見されている.
北方地域の中から,ノルウェー・小樽・アメリカ北西海岸の3地方の鯨類壁画について,シャチを中心に紹介する.
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○長澤一雄(山形県立高畠高校)・荻野みちる(海の哺乳類センター)・牧野直美(浜にうちあがったクジラを助ける会)
1997年開催された海棲哺乳類ストランディングシンポジウムにおいて海の哺乳類のための救助隊を提唱してから,国内外のボランティアネットワークを基盤に,海の哺乳類に対する関心が広まってきたことは大変喜ばしい.しかしながら,まだまだ未知のことが多い分野だけに,ライブストランディング対応における諸問題について,専門家・非専門家を問わず今後も様々な面で検討や講習会が必要である.
2001年5月13日に東京都千代田区で日鯨研の石川創氏や八景島アクアマリンミュージアムの徳武浩司氏らを講師に迎え,ライブストランディング対応についての講習会(主催:うちあがったクジラを助ける会,後援:日本海セトロジー研究会,海の哺乳類センター)を行った.また,これを機会に発足したネットワークによる情報ホームページwww.strandingjapan.netを開設し,ライブストランディング情報を公開・発信している.今後も引き続きネットワーク参加者の協力により各地において講習会を開催する予定である.
講習会場で展示したストランディング対応パネルの一部について報告するとともに,ホームページの紹介を行う.
|
○平口哲夫(金沢医科大学)・福田友之(青森県埋文調査センター)・田邉由美子(千葉県立中央博物館)・松井 章(奈良文化財研究所)
【経 緯】
韓国ウルサン湾にそそぐ太和江の上流部,盤亀台付近のダムに面した岩壁には,陸生動物・水生動物・人物・船・網・柵・鳥類からなる多数の画像が刻まれており,しかも鯨類や捕鯨の様子が描かれていることから注目をあびてきた.この鯨類画には,ナガスクジラ類やセミクジラなどのヒゲクジラ類とともに,アカボウクジラ・ツチクジラ類,ゴンドウクジラ類,コククジラ,シャチ,マッコウクジラなど大型ハクジラ類と考えられるものがある(平口,1990・1991).このうちマッコウクジラについては,セト研第11回大会において取り上げ,日本海沿岸遺跡からどれくらい関連遺物が出ているか,「貝塚データベース」や「動物遺存体データベース」で検索した(平口・松井,2000).また,発表要旨集のホームページ版でもその補足をしている(http://www.kanazawa-med.ac.jp/~hum-sci/ceto-k11pp.htm).今回は,マッコウクジラを含む大型ハクジラ類について同様の試みをした結果を報告する.
【日本の遺跡における大型ハクジラ類出土例】
Kaizuka Database (http://koko.soken.ac.jp/groups/kaizuka/)ではマッコウクジラ10遺跡・アカボウクジラ類2遺跡・シャチ14遺跡(註),縄文時代動物遺存体データベース(http://202.242.101.152/)ではマッコウクジラ3遺跡・シャチ1遺跡が抽出された.東京湾沿岸地域の「鯨類出土遺跡一覧表」(田邉,2000)には,マッコウクジラ1遺跡,シャチ3遺跡が掲載されている.『骨角器の研究 縄文編T・U』(金子・忍沢,1986)は,シャチの歯の穿孔品が出土した例として3遺跡(茨城県椎塚,福岡県天神橋貝塚,長崎県対馬佐賀貝塚)を紹介している.これらを総合すると,マッコウクジラ12遺跡,アカボウクジラ類2遺跡,シャチ18遺跡,合計32遺跡を数える.
|
[種名] |
[遺跡名] |
[時代] |
[県名] |
[所在地] |
| 1 |
マッコウクジラ |
オンネモト遺跡 |
古代 |
北海道 |
根室市温根元 |
| 2 |
マッコウクジラ |
香深井遺跡 |
古代 |
北海道 |
礼文郡礼文町香深井 |
| 3 |
マッコウクジラ |
鍬ケ崎館山貝塚 |
縄文早期〜晩期 |
岩手県 |
宮古市 |
| 4 |
マッコウクジラ |
南境貝塚(北境久保遺跡) |
縄文中〜晩期 |
宮城県 |
石巻市南境妙見 |
| 5 |
マッコウクジラ |
南境貝塚(第四次調査) |
縄文早期〜晩期 |
宮城県 |
石巻市南境妙見 |
| 6 |
マッコウクジラ |
浦宿尾田峯貝塚(浦宿貝塚) |
縄文中・後期 |
宮城県 |
牡鹿郡女川町浦宿浜浦 |
| 7 |
マッコウクジラ |
大田房貝塚 |
縄文後・晩期 |
茨城県 |
那珂湊市柳沢字大田房 |
| 8 |
マッコウクジラ |
粟島台 |
縄文後・晩期 |
千葉県 |
銚子市南小川町粟島台 |
| 9 |
マッコウクジラ |
粟島台遺跡(D地点貝塚) |
縄文中期 |
千葉県 |
銚子市南小川町粟島台 |
| 10 |
マッコウクジラ |
塚田貝塚 |
縄文後期 |
千葉県 |
船橋市前貝塚町 |
| 11 |
マッコウクジラ |
渡浮根遺跡 |
縄文後・晩期 |
東京都 |
新島本村若郷渡浮根港 |
| 12 |
マッコウクジラ |
蜆塚貝塚 |
縄文後・晩期 |
静岡県 |
浜松市蜆塚町 |
| 13 |
アカボウクジラ類 |
香深井遺跡 |
北海道 |
北海道 |
礼文郡礼文町香深井 |
| 14 |
アカボウクジラ類 |
真脇遺跡 |
石川県 |
石川県 |
鳳至郡能都町字真脇 |
| 15 |
シャチ |
材木町5遺跡 |
古墳(擦文土器) |
北海道 |
釧路市材木町7,8番 |
| 16 |
シャチ |
オンコロマナイB遺跡 |
? |
北海道 |
稚内市宗谷村清浜 |
| 17 |
シャチ |
貝鳥貝塚 |
縄文中・後期 |
岩手県 |
西磐井郡花泉町油島蝦 |
| 18 |
シャチ |
沼津貝塚(出外貝塚) |
縄文中・後期 |
宮城県 |
石巻市沼津字出外 |
| 19 |
シャチ |
唐松・山下貝塚 |
縄文後期 |
宮城県 |
牡鹿郡女川町針浜唐松 |
| 20 |
シャチ |
薄磯貝塚 |
縄文晩期 |
福島県 |
いわき市平豊間町薄磯 |
| 21 |
シャチ |
上高津貝塚 |
縄文後期 |
茨城県 |
土浦市高津町 |
| 22 |
シャチ |
椎塚貝塚 |
縄文中〜晩期 |
茨城県 |
江戸崎町椎塚 |
| 23 |
シャチ |
貝の花貝塚 |
縄文中・後・晩期 |
千葉県 |
松戸市小金原5・8丁 |
| 24 |
シャチ |
下田(西)貝塚 |
? |
神奈川県 |
横浜市港北区下田町駒ケ橋杉並 |
| 25 |
シャチ |
称名寺A貝塚 |
縄文後期 |
神奈川県 |
横浜市金沢区金沢町称名寺山門 |
| 26 |
シャチ |
青ケ台貝塚 |
縄文後期 |
神奈川県 |
横浜市金沢区釜利谷町 |
| 27 |
シャチ |
諸磯貝塚 |
縄文前期 |
神奈川県 |
三浦市三崎町諸磯 |
| 28 |
シャチ |
鳥浜貝塚 |
縄文早・前期 |
福井県 |
三方郡三方町鳥浜高瀬 |
| 29 |
シャチ |
天神橋貝塚 |
縄文時代 |
福岡県 |
直方市 |
| 30 |
シャチ |
佐賀貝塚 |
縄文後期 |
長崎県 |
上県郡峰町大字佐賀 |
| 31 |
シャチ |
沖の原貝塚 |
縄文中期 |
熊本県 |
天草郡五和町二江沖の原 |
| 32 |
シャチ |
部瀬名貝塚(喜瀬貝塚) |
弥生時代 |
沖縄県 |
名護市字喜瀬部瀬名原 |
太平洋側の遺跡例が圧倒的に多く,日本海側は北海道礼文町香深井遺跡(マッコウクジラ,アカボウクジラ類),石川県能都町真脇遺跡(アカボウクジラ類),福井県三方町鳥浜貝塚,長崎県(対馬)峰町佐賀貝塚(シャチ)の4遺跡にとどまる.これは,動物遺体の出土する遺跡の多くが貝塚であり,その分布が東北・関東地方の太平洋側に偏っていることに大きく起因しているのであり,各地の動物遺体出土遺跡数に占める大型ハクジラ類出土遺跡数率に換算するならば,偏りの程度は緩和されるであろう.いずれにしても,遺跡から出土した大型鯨類の同定作業は甚だ不十分であることから,既報告・未報告を問わず資料を見直しながらデータベースを作成していくことが必要である.たとえば青森県における鯨類出土遺跡(福田,1998)の一つ,木造町田小屋野貝塚(縄文前期)からはツチクジラ級の大きさの鯨類上顎骨破片が出土しており,正確な種の同定が期待されている.
北海道では,函館市桔梗2遺跡出土シャチ形土製品(縄文中期)をはじめ,鯨類を表現した遺物がいくつも出土しており,特にオホーツク文化期の彫刻品に顕著に認められる(長沼,1987).このような土製品・彫刻品をも含めて鯨類関係遺物を総合的に検討していきたい.
【韓国慶尚南道沿岸における鯨類出土遺跡】
盤亀台遺跡は慶尚南道の東北部に位置するが,その地にあって韓国の代表的な工業都市に発展したウルサンはかつて捕鯨基地として栄えた町であった.その事実が象徴するように,かつてウルサン近海には鯨類が多数生息していた.プサン以西の沿岸・島嶼には,朝島貝塚・東三洞貝塚・府院洞遺跡・水佳里貝塚・煙台島煙谷貝塚・上老大島上里貝塚・上老大島山登貝塚など,鯨類遺物の出土する遺跡も多く分布している(平口,1997).朝鮮海峡を挟んで対峙する韓国南部と九州北部の諸遺跡から出土する鯨類遺物の同定作業を進め,比較検討することも今後の課題である.
註:現時点のKaizuka Databaseには入力エラーが多いので、利用するにあたっては注意が必要である。 |