≪本学スタッフ新刊著書≫

日本海シンポジウム
味噌・醤油・酒の来た道
日本海沿岸諸民族の食文化と日本

 森 浩一 編、陳 舜臣・大林太良・佐々木史郎・金 宅圭・浅井 亭・平口 哲夫・門脇 禎二・佐伯 安一・中川  眸・小泉 武夫 共著    

  小学館刊 定価840

(金沢医科大学学報96:26,1998を改訂)

198610月4日から5日にかけて、第4回日本海文化を考える富山シンポジウム「食文化―創造と伝統」が富山市で開催された。本書は、両日の記録に増補・加筆し、1987年に小学館から刊行されたものを文庫版として再編集したものである。旧体裁の初版から数えて3版目に相当し、刊行まもなく在庫がなくなってしまったというから、評判は上々といえよう。

編者のほか10名がシンポジウムの発表順に執筆している。陳舜臣「中国の食物史」、大林太良「食文化の複眼的、総合的考察」、佐々木史郎「沿海州における食文化」、金宅圭「韓民族の食文化」、浅井亭「蝦夷の食生活」、平口哲夫「遺物から見た縄文人の食生活」、門脇禎二「古代日本海の食物とその貢進」、佐伯安一「海と山の食文化」、中川眸「日本のすし・富山のすし」、小泉武夫「日本の酒・古志の酒」。また、末尾に講師座談会「日本海海域の食文化」と森浩一「日本海文化研究」が収録されている。

私を除けば、いずれも著名な作家・研究者であり、それぞれの掲げるテーマも内容もまことに個性的かつ魅力的で、しかも全体的にうまくまとまっている。一連のシンポジウムの中で最も成功した例であろう。 「味噌・醤油・酒の来た道」というタイトルは、シンポジウム段階ではなく、編集段階で付けられたものである。これは、発表者によっては必ずしも主要な関心事となっていたわけではないが、誰もがなんらかの点でこれに通じる発言をしており、しかも発表者の一人、小泉氏(東京農業大学教授)が醸造学・発酵化学専攻で、話を大いにリードしたことから、タイトルとして最終的に選ばれたのであろう。

シンポジウムの席上、私が、縄文時代の貝塚から微小魚骨が多数出土する現象をとりあげ、漁醤説を紹介したところ、後半の座談会で佐々木氏(国立民族学博物館助教授)から塩利用の観点から鋭く質問されたり、座談会が終ったあとも小泉氏から「発酵学的に証明できそうな遺物が出土したらよろしく」と声をかけられたことなどが懐かしく思い出される。

あのシンポジウムからはや12年。私個人の後日談になるが、この間の研究成果を踏まえた講演「共に生きた縄文人たち―縄文食の多様性と福祉活動」を富山県埋蔵文化財センター平成9年度第1回公開講座で行った。その要旨は、同センター所報第61号に掲載されているので、本書(本学図書館に寄贈)と合わせてご一読いただければ幸いである。

                                                            (人文科学 平口哲夫)


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