岡田利彦著『青い車幅灯』を読んで

平口 哲夫

(金沢医科大学学報,83:34,1995)


岡田利彦著 『青い車幅灯』 (非売品,1995)

本書は、金沢医科大学生化学第一教室の岡田教授が本年3月をもって定年退職されるにあたり、若い学生たちに残したい言葉をまとめられた文集である。主として本学学報に掲載された9編の随想、キリスト教関係の短大・教会で担当された説教、外国人研究者との交流の思い出からなる。そのほか、冒頭には自己紹介・挨拶につづいて令夫人の特別寄稿、末尾には教授がお世話したシンポジウム等の目録、本学十年史・二十年史からの抜粋記事、そしてさまざまな思い出写真が掲載されている。

教授の講義を受けた3〜6学年の学生全員が本書をいただいたそうであるが、その学生たちから送ってもらって読んだ父兄から、感謝の手紙が多数寄せられているという。いかにも岡田教授らしい人間性あふれる随想は、学生たちがおのずと啓発を受けるような内容に満ちている。本学における染色体分析法の講習に尽力されたエラスムス大学スタッフについての思い出(学報第82号に再録)にも同じことがいえよう。研究者としての力量にくわえて、誠実に、親切に、また熱意をもって接することが、信頼関係のネットワークを形成し、感動的な国際学術交流の実を結ぶということに、学生たちは深い感銘を受けるであろう。また、無機イオンの動態研究に関連した論文受理までの長い道のりに、学問の厳しさとこれに挑戦する学者魂を教えられるに違いない。

教授と私は同じ昭和49年に本学に着任したが、はじめてお会いしたのは、金沢若草教会の礼拝の場においてであった。その頃まだ小さかった4人のお子さんたちがいまや立派に成長された姿を本書掲載の写真に見ることができる。ご家庭のことに1章が割かれているわけではないにしても、教授の半生を織りなす研究・教育・教会・家庭という、いずれも大切な世界が本書に集約されているように思う。本書は、教授が大阪帝国大学医学部に入学された年、すなわち昭和20年に生まれた私のような世代にも、人生についての示唆を与えてくれる。

「親と子」、「生かされてあることの喜び」、「神の国と人の国」、「神様はどこにいる」、「キリストの愛」という5編の説教に証された真実に、「青い車幅灯」の照らす道は通じるのではないだろうか。似非宗教がはびこる昨今の世相だけに、良医をめざす学生たちはもちろんのこと、ひろく一般の方々にもぜひ読んでいただきたい一書である。



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