喫煙について

平口 哲夫

(金沢医科大学学報,35:20,1984)



学生時代、恩師にお伴して大分県まで遺跡調査に出かけたことがある。別府駅に降り立って水道の蛇口をひねったところ、熱湯がほとばしり出た。さすが湯の町、プラットホームでもお湯が出るのかと感心していたら、やがて水になった。猛暑の中での調査が思いやられた。タクシーに乗り込み、前席の先生がたばこを吸おうとすると、運転手いわく、「たばこはご遠慮願います。クーラーによくないので」。一瞬不快な顔になった先生をながめてハラハラしながらも、クーラーによくないものが人間にいいはずがないと思ったものだった。

禁煙・嫌煙運動が勢いを増してきた最近でも、似たような思いをしたことがある。新聞でのことであるが、喫煙者の吐く息の中には喫煙後もかなりの時間、喫煙に由来する微粒子が多く含まれているので、“徹底した浮遊塵対策を必要とするエレクトニクス工場では喫煙者に要注意”という記事を見た。車でもヘビースモーカーを側に乗せて運転していると、たばこを吸っていない時でも灰皿そっくりの臭いが車中に立ちこめることを知っているので、なるほどと合点した。そして、集積回路よりもまず人間の方を心配してほしいものだと思った次第である。

とくに病院は最も清浄な空気が確保されていなければならない場所の一つであろう。一部の人の喫煙のために室内の空気全体が台なしになってしまう。非喫煙者ばかりでなく、喫煙習慣のある患者にとっても、院内喫煙は大いに自粛すべきと思う。更に、たばこをやめたい人、あるいはやめなければならない人のために、禁煙のカウンセラーを考えるなど、煙害の積極的な予防対策が望まれる。


金沢ひまわり平和研究室 平口哲夫執筆の文献  管理者 平口哲夫