日本海セトロジー研究会第10回大会

平口 哲夫

(金沢医科大学学報,100:20,1999)



日本海セトロジー(鯨類学,Cetology)研究会は、日本海の鯨類に関する研究ならびに理解の普及を促進するとともに、情報収集のネットワークをつくることを目的としている。昨年度は、福岡市で創立10周年記念集会を開催し、また、会名称を「研究グループ」から「研究会」に、年次集会の名称を「研究会」から「大会」に改めた。今年度は、本学ならびに石川県の補助金を得て、7月17日(土)・18日(日)、教養棟3階A31講義室で通算10回目の大会を開催することができた。ご支援いただいた各機関ならびに各位に心からお礼申し上げる。

さて、セト研発足の直接契機は1988年能都町と富来町におけるオウギハクジラの水揚げ・漂着であるが、1980年代の能登半島では、のとじま臨海公園水族館の開館ならびに能都町真脇遺跡のイルカ多量出土を皮切りに、日本海の鯨類をめぐって注目に値する出来事があいついだ。故山田致知先生(金沢大学医学部名誉教授)を中心に発足したこの会に、医学・生物学・古生物学・水産学・歴史学・考古学・民族学など様々な分野の研究者や愛好者が馳せ参ずることになった要因として、この10年間の出来事があげられよう。

本大会では、アメリカ合衆国の海棲哺乳類センターで活躍中のEarl Richmond(アール・リッチモンド氏)による特別講演のほか、口頭発表(10題)、ポスター発表(9題)、鯨類化石展示、七塚町“海と渚の博物館”や石川県銭屋五兵衛記念館などの見学が行われた。また、釜山にある水産業史研究所の朴九秉所長(本会外国会員、元釜山水産大学資源経済学科教授)らによる、韓国沿岸漂着オウギハクジラ属のポスター発表もあった。朴先生とは、1990年訪韓の際にお世話になって以来、文通を続けているが、今年4月に私のもとに寄せられた手紙と写真により、韓国にもオウギハクジラが漂着したことが判明したのである。口頭発表の最後に筆者ら5名の“耳寄りな話”として、能登半島富来沖海底産ヒゲクジラ類の鼓室胞化石を中心とする発表を行なった。発表要旨集は、以下のホームページにも掲載されているのでご覧いただきたい。
 http://sophiruka.sakura.ne.jp/KHP/publication/ceto-k10ab

以上のように、北陸の地で活動が開始されたセト研は、環日本海はもとより環太平洋的な規模で交流の広がりを見せている。日ごろの地道な活動をふまえ、近い将来、国際シンポジウムを開催することができれば幸いである。                    (人文科学 平口哲夫記)


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