(In English)
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P1 北海道日本海沿岸のコククジラ―漂着個体の回収と捕獲記録―○宇仁義和・増田 泰(知床博物館)・高橋興世(黒松内町ブナセンター) コククジラ Eschrichtius robustus のアジア系群は個体数が極めて少ない状況にあり、夏季の索餌域であるサハリン北部沿岸での油田開発の影響によって、その生存が危ぶまれている地域個体群である. ここでは1996年5月に北海道の日本海岸にある寿都町に漂着したアジア系群と考えられるコククジラについて,漂着状況と埋設処理の様子,そして2001年10月に実施した埋設個体の発掘状況と現状を報告する.なお,このクジラは国内ではほとんど唯一のアジア系群の標本であり,加えて密漁の疑いと肉が市場に出回ったとの推測から現在まで注目を集めている個体である. また,アジア系群の回遊ルートとしてシベリア大陸沿岸が想定されてきたが,日本列島沿岸にも回遊ルートが存在したとする見解がある.列島側の回遊ルートを支持する事例として,北海道の日本海沿岸でのコククジラの捕獲記録を紹介し,本種の過去の分布に関してアイヌ語方言など歴史民俗的事例からの考察を試みる. |
P2 佐渡島の鯨類漂着記録野田栄吉,○山田 格(国立科学博物館) これまでの日本海セトロジー研究会における鯨類のストランディング調査の結果を見ると,新潟県,とりわけなかでも佐渡島はストランディングの頻度が高いといえよう.演者の一人野田は,水産関係の職務に就いていたこともあり,はやくから珍しい生物に関心をもち,記録することの重要性,標本の貴重さなどを重視してそれらの確保に心を砕いていた.新潟県栽培漁業センターに勤務していた1983年頃からは,鯨類にも心を配ることとなり,職務の関係で親しくなった漁業関係者などからの情報収集,さらには漂着個体の収集あるいは標本の展示をも目指すようになった.最初の投稿内容が鯨研通信の「ストランディング・レコード」に掲載された1983年4月以降2000年12月31日までのストランディングデータベースに含まれている56件のデータのうち,まったく関知していなかったのは6件,佐渡で認知されたストランディング(漂着,混獲,目視などを含む)の約90%に何らかの形で関与したことになる. これらのデータの内訳は,ナガスクジラ科(21件),アカボウクジラ科(24件),マイルカ科(5件),ネズミイルカ科(1件),種不明鯨類(11件)である.ちなみに鰭脚類(ゴマフアザラシ)のストランディングも2件ほど報告した.残念ながら,例えばオウギハクジラ(属)については骨格標本を作製して種同定を行うなどの作業が困難なため成熟オス以外では種同定が困難で種不明オウギハクジラ属の数が多いこと,あるいは混獲ミンククジラの件数はおそらく実態を正確には反映していないことなど問題は少なくないが,本州側では数の多いカマイルカや,イシイルカなどのストランディング件数がきわめて少ないことなど新潟県内でも本州側と佐渡周辺では様相が大きく異なっている可能性が見え,今後の精査が期待される.また,ミンククジラでは圧倒的に混獲件数が多いのに対して,オウギハクジラ(属)では漂着件数が多いことも注目される. このようなストランディング調査を今後も継続することで,これら日本海に棲息する鯨類の生物学的データの蓄積,生活史の解明などを進め,彼らの保全を進めていくための基礎データを築き上げていこうと考えている. |
P3 富山湾(富山県)における海棲哺乳類の漂着記録(1999〜2001年)
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P4 山口県周辺海域で確認されたスナメリのストランディングについて○中村清美・榊原 茂・水嶋健司・和田政士・Grant Abel・土井啓行・立川利幸(下関市立しものせき水族館)菊池拓二(下関市) 山口県周辺海域には,水産資源保護法で保護動物に指定されているスナメリNeophocaena phocaenoides の生息が確認されている.しかし,本種の漁業による混獲や海岸への漂着などが多発している.下関市立しものせき水族館では,これらの事例に迅速に対応することを目的に関門地区周辺の鯨類に興味を持つ人々を対象にホエールボランティア組織を構築し,情報収集のネットワークづくりを行っている.また,寄せられた情報に基づき,個体の保護や回収および詳細な情報の収集を行っており,その結果から本種の現在おかれている状況の把握に努めている.今回は,1998年5月から2002年5月までの4年間に確認された47件の事例につき報告する. 確認されたストランディング個体は,1998年5個体,1999年10個体,2000年18個体,2001 年10体,2002年5個体,合計48個体であった.性別はオス28個体,メス15個体,不明5個体で,それらの平均体長は115.2cm(最大206.7m,最小68.1cm),平均体重23.8kg(最大54.5kg,最小4.2kg)であった. 最も多く確認された月は5月で16個体(33.3%),ついで4月7個体(15.0%),6,10,12の各月はそれぞれ4個体(8.3%),その他の月は合計で13個体(27.1%)であり,ストランディングが確認されなかった月はなかった. 全48個体のうち,体長100cmに満たない個体は14個体で,月別では2月1個体(7.1%),4月2個体(14.3%),5月7個体(50.0%),6月3個体(21.4%),9月1個体(7.1%)で,4月から6月の3ヶ月間で全体の85.7%を占めていた. また,47件のストランディング状況は,漂着26件,海上漂流5件,迷入1件(2個体),混獲11件,座礁1件,不明が3件であった. 漂着および海上漂流していたものの中には,尾ビレが尾柄部から欠損しているもの,頸部の皮脂,筋肉が欠損しているもの,下顎骨や脊椎骨,肋骨などが骨折しているものなど,外的要因による傷が認められるものがあった. なお,同期間,同海域においては,ユメゴンドウ,ハナゴンドウ,オガワコマッコウ,オオギハクジラなどのストランディングも確認されている. ストランディング情報は,ホエールボランティアをはじめ,自治体関係者,漁業関係者,さらには一般市民からも寄せられている.今後もスナメリの生息する海域の環境保全に関する理解の啓発に努めるとともに,より多くの情報を収集し,本種の生態を明らかにしていきたい. |
P5 鯨類の骨盤周囲形態に関する比較解剖学的考察○田島木綿子(東京大学大学院)・今井理衣(麻布大学)・福岡秀雄(麻布大学)・山田格(国立科学博物館),林良博(東京大学大学院) 【緒言】 現生の鯨類はその外貌からも明らかなように後肢は消失し,陸棲哺乳類でいわれる骨盤はかれらの進化の過程で退行性変化したことは従来からよく知られていることである.鯨類と陸棲哺乳類の局所解剖学的研究はかれらが進化した過程で誘起された形態学的相違を理解する上で大変重要な分野である.本研究では鯨類の腹壁筋(外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋,腹直筋の4筋)尾側端の形態学的構造および骨盤骨の機能解析に着目し,骨盤骨が退縮したことと周囲軟部組織が変化したこととの局所的な関係を明らかにすることを試みた.比較的入手可能であるスナメリ(Neophocaena phocaenoides) 4頭と比較対照として用いたヤギ1頭についていくつかの所見が得られたのでここに報告する. 【症例と方法】 スナメリ4頭とヤギ1頭を肉眼解剖学的定法の基解剖を進めた.長期保存を可能にするためにスナメリA,B,Cおよびヤギは10%ホルマリン液で固定後,50%アルコールで置換した.スナメリDは新鮮材料のまま解剖を行った.スナメリA:死亡漂着 体長111cm メス,B:飼育個体 体長152cm メス,C:死亡漂着 体長181cm オス,D:死亡漂着 体長159cm オス. 【所見と考察】 スナメリの腹壁筋は陸棲哺乳類と同様に最表層より外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋および腹直筋が存在するが,極めて良く発達する.さらに陸棲哺乳類における深鼠径輪と後腹壁動脈,血管孔と鼠径靱帯の関係も観察された.一方で内腹斜筋を伴い腹直筋の最尾側端は骨盤骨前端で強靱な腱膜となり,その大部分が背尾側方向斜めに走り胸腰筋膜に終わっていた.これにより本来大腿骨がある動物ではこれに停止し,これを支える役割を担う大腰筋(陸棲哺乳類の腸腰筋が変化したもの)とともに収縮すると尾側体幹は腹側へ強く屈曲することができ,反対に極めて良く発達した背筋が収縮すると尾側体幹は背側へ強く屈曲することが推測された.これが水中遊泳時の主要な推進力となる.さらに,これら筋肉の形態変化は体幹尾部を見事な流線形にすることに成功し,水の抵抗を最小限にすることを可能にした.つまり,進化の過程で抜本的ないくつかの変化は起こったにもかかわらず,鼠径靱帯や血管孔など陸棲哺乳類の特徴的な構造をいくつか維持していることは大変興味深い.腹直筋鞘の構成は陸棲哺乳類のそれとは弓状線が観察されないなど異なる部分がいくつか観察された.また,オス の陰茎脚と各側骨盤骨はしっかりと付着し,生殖器を支えていた.陸棲哺乳類での骨盤骨の主要な機能を形質転換の間に鯨類はほとんどを失ったが,生殖器を支持するという機能は維持していた.メスでの解剖を進め,再検討を重ねたい. |
P6 オウギハクジラ属の歯の形態○新井上巳,高野吉郎(東京医科歯科大学大学院 硬組織構造生物学),山田格(国立科学博物館) 日本海沿岸の各地でストランディングするオウギハクジラMesoplodon stejnegeriは日本海セトロジー研究会の発足の契機にもなった興味深い種である.成熟オスのみで萌出するオウギハクジラ属の歯は種により特異的で,印象的でありフィールドでの同定にも役立つ. オウギハクジラ属について研究を進めていく上で,それぞれの種の歯の形態の違いを理解することは重要である.今回はオウギハクジラ属数種の歯を写真や図を交えて紹介する.また,日本の沿岸でみられるオウギハクジラ,イチョウハクジラM. ginkgodens,コブハクジラM. densirostris,ハッブスオウギハクジラM. carlhubbsiについて歯の実標本やレプリカを供覧し,特にオウギハクジラについて成長過程,雌雄差などを概説する. |
P7 オウギハクジラ(M.stejnegeri)卵巣の肉眼による観察○前田かおり(麻布大学獣医学部獣医学科)・天野雅男(東京大学海洋研究所)・福岡秀雄(麻布大学獣医学部基礎教育系生物)・山田 格(国立科学博物館) オウギハクジラ(Mesoplodon stejnegeri)はアラスカからカルフォルニア南部にわたる北太洋および日本海で知られているMesoplodon 属の中型の歯鯨である.この種はその生活を海面近くで過ごさずにいるので目視されることが少なく,その行動,社会構造についてはほとんどわかっていない.またMesoplodon 属は年齢査定法が確立されておらず,成長あるいは性周期に関する研究は困難である.ただし,一般に年齢とともに吻部の背側正中部が隆起する,特徴的な化骨(吻央化骨)が進むことが知られている. 本論文は日本海沿岸で1996年から2000年にかけてストランディングした雌個体7体を用いて,その卵巣の成熟度と解剖所見,吻央化骨の所見を含めて得られる,できる限りの情報を用いて7個体を3つのグループ(未成熟な個体immature:2個体,非妊娠成熟個体resting:2個体,妊娠個体pregnant:3個体)に分けて比較を行った.3つに分けたグループのうち2つはおそらく成熟個体のグループだが,卵巣に妊娠黄体があるものとないものを別グループに分けた. 7個体中,卵巣に黄体,白体,卵胞を認められなかったのは2個体であった.その2個体は骨の所見ならびに体長から身体的に未成熟であると思われる.妊娠黄体のない成熟個体は2個体であるが,その内1個体は解剖所見より,ごく最近に妊娠,出産を経験した可能性が高い.妊娠個体はまもなく出産するであろうと思われる個体が2個体と,妊娠中期から後期にかけて死亡したと思われる胎児が存在している個体があった.成熟個体,妊娠個体共に白体があり,妊娠個体には妊娠黄体が認められたが,どちらにも発情黄体は確認できなかった.(ただし,ここに記した白体は確証するにはいたらず,顕微鏡下での確認が必要だと思われる.)また他の鯨類に認められるような消失しない白体を確認することは困難であった. 本論では年齢データがないことなどの事情もあり,厳密な議論はできなかったが,本論の所見を踏まえた組織学的観察など,将来のさらなる研究が期待される. |
P8 日本海におけるオウギハクジラ (Mesoplodon stejnegeri) の遺伝的多様性(ミトコンドリアDNA配列に基づく解析)○角田恒雄(神奈川大学理学部)・山田格 (国立科学博物館) 【はじめに】 アカボウクジラ科の一種であるオウギハクジラ Mesoplodon stejnegeri は日本近海を含む,北部北大平洋に棲息するとされている.野外観測においてMesoplodon属を種まで識別することは非常に難しく,本種の棲息範囲に関する知識は主として漂着の記録に依存している.オウギハクジラは近年まで世界的に非常に希少な種であると考えられていたが,1980年代後半から始められた日本海セトロジー研究会による日本海沿岸の漂着鯨類調査から,毎年5〜20件の本種の漂着があることが判明し,これら漂着個体から,食性や繁殖に関する知見が続々報告されてきている.しかしながら本種における回遊,繁殖行動および集団構成といった生活史は多くの部分が未だ不明のままである。本研究では1993年から2001年の期間に日本海岸に漂着したオウギハクジラから採取した組織サンプルからDNAを抽出し,日本海におけるオウギハクジラの遺伝的多様性を推定した. 【試料と方法】 1993年から2001年に漂着した40個体のオウギハクジラの組織試料(皮膚,筋肉など)を使用した.試料はDNA抽出作業を行うまで70 %もしくは99 %エタノール中で保管されていたものを用いた.試料から全DNAを抽出し,ミトコンドリアDNAのDループ全領域を含む一部領域を決定し、比較を行った。 【結果と考察】 40個体全てのDループ全領域,フェニルアラニントランスファーRNA(tRNAphe),ノンコーディング領域を含む1000塩基対(bps)の塩基配列決定ができた.解析を行った領域は全ての個体で同じ長さで,塩基の欠失や挿入は見られなかった.塩基配列の比較では,3つの塩基置換が検出された.Dループ領域に検出された2つの塩基置換は,3つ見られた遺伝型のうちの2つの間で同調しており,解析した多くの個体がこれらの塩基置換によって2つの遺伝型に分けられた.このような結果の原因として,1)同一集団内に明確に異なる遺伝型が存在する,2)遺伝的な交流のない集団が同所的に存在する,という2つの可能性が挙げられる.本研究で得られた遺伝型の情報をもとに各個体の漂着地点を地図上にプロットしてみたところ,漂着地と遺伝型の間に明らかな傾向は見られなかった.しかし季節ごとに漂着地点をプロットした結果,ともに3,4月が漂着のピークではあるものの,解析を行った個体の大部分から構成される2つの遺伝型の一方は2月から4月に漂着が集中的に見られ,もう一方は2月を除く9月から6月まで漂着が見られるという傾向あることが判明した.これは日本 海に棲息するオウギハクジラに2つあるいはそれ以上の季節回遊をおこなう集団が存在する可能性を示唆するものと考える.今後の核DNAの解析,形態学的,生態学的調査により,これら遺伝的に明瞭に異なる集団のを明らかにしてゆきたい. |
P9 2001年6月以降に得られた新潟県沿岸・沖合における鯨類等の目撃・漂着記録○中村幸弘(上越市立水族館)・箕輪一博(柏崎市立博物館)・青柳 彰(寺泊町立水族博物館)・進藤順治(新潟市水族館)・本間義治(新潟大学医学部) 新潟県における鯨類の漂着・混獲・目撃などに関する記録は本間(1981,1990)本間ら(1981,1993,1994,1995,1996,1997,1998,1999),箕輪ら(2000),進藤ら(2001)によって報告されてきた。 今回は,2001年6月から2002年5月までの1年間に,新潟県沿岸に漂着・混獲・目撃などされた鯨類などの海生哺乳類について,演者らのフィールド調査と日本海セトロジー研究会や鯨研のストランディングデータベースを参照して記録を収集した.なお,1件のみ先回(進藤ら,2001)の報告後に発見された2001年4月の事例を加えてある。漂着は8件あり,オウギハクジラが2件,ハンドウイルカが2件,ミンククジラが1件,ハクジラの1種が1件,イルカの1種が2件で,1件が生存,他の6件は死亡していた.オウギハクジラのうち,2002年5月25日に柏崎市に漂着した個体は幼獣で注目された.混獲は4件あり,ミンククジラが3件,ハナゴンドウが1件,目撃は佐渡汽船の障害物看視記録(本間・古川原,2002)とは別に3件あり,イルカの1種が2件,ゴマフアザラシ(?)が1件であった。 2002年2月9日に,柏崎市に漂着したハンドウイルカについては,3月20日に上越市立水族博物館において行われた「ストランディング・コーディネーター講習」の材料として使用したので,その際の模様も紹介する. |
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