日本海セトロジー研究会第13回大会
口頭発表要旨


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目次


O1 マイルカ・カマイルカ漁の民族考古学


平口哲夫(金沢医科大学)


一般にイルカの追い込み漁では特別の道具を必要としないため,イルカの骨が遺跡から出土しても,漂着個体を利用したにすぎないのか,それとも積極的に捕獲した結果なのかを判断するのはむずかしい.石川県能都町真脇遺跡で縄文時代イルカ漁を証明することができたのは,当遺跡のみならず,その位置する能登半島・富山湾沿岸地域が民族考古学的あるいは動物考古学的にいくつかの好条件を備えていたからである.真脇遺跡出土の哺乳動物個体数のおよそ90%(286個体以上)がイルカで占められているということも好条件の一つに違いないが,集団漂着のことを考えるならば,多量出土だけではイルカ漁の直接証拠にはならない.

真脇遺跡でイルカ骨がもっとも多く出土したT区]T層(縄文前期後葉〜中期前葉,約5000年前)のイルカ種構成は,第一頚椎によれば,カマイルカ60%,マイルカ34%,ハンドウイルカ・ゴンドウクジラ類6%である.マイルカならば追い込み漁で捕獲しやすいが,カマイルカは,包囲網を突破する能力を持っているので,いまでも追い込み漁で捕獲するのは効率的ではない.享保(1716〜1736)元文(1736〜1741)年間に書かれた『前田本草』には,カマイルカについて「網を懸け申候てもとまり不申候 もりなとにて突取申候事に御座候」とある.つまり,カマイルカは網で捕獲するのはむずかしいから,銛などで突いてとるのがよいと言っているのである.

真脇遺跡では,北陸の縄文時代前期〜晩期遺跡としては異常に多く石槍が出土している.イルカ骨がもっとも多く出土したT区]T層では,主要石器に占める石槍の出現率が他の層に比べて最高の62%を占める.ちなみに外浦に面する富来町福浦港ヘラソ遺跡の同時期層では石槍はわずか1.3%を占めるにすぎない.一方,富山県氷見市朝日貝塚では,種同定された22個体のイルカ第一頚椎のうち,マイルカが77%,カマイルカが14%を占め,それに呼応するように石槍はほとんど出土していない.したがって真脇縄文人は,少なくともカマイルカにたいしては,ある程度追い込んだ段階で石槍で突くという方法を用いたと考えられる.

真脇では,天保9年(1838)に書かれた『能登採魚図絵』が示すように,近世においても「いるか廻し」と呼ばれる追い込み漁が盛んに行われており,毎年きまった季節にイルカが群をなして沿岸に回遊してきた.しかも,能登半島における漂着鯨類の分布をみると,外浦(日本海側)には文字通り漂着が多いが,内浦(富山湾側)は定置網による混獲が多い.どちらの側においても集団漂着の例はなく,単独漂着ばかりだということに注目したい.

真脇に伝わる「藤の花の咲く頃」(5月頃)のイルカ漁期はカマイルカ回遊期に一致する.大正頃(1910年代)の絵葉書に,真脇に隣接する内浦町小木のマイルカ漁を写したものがある.マイルカはカマイルカの場合よりも水温が高くなってから回遊してくる.外洋性といわれるマイルカが,富山湾奥に位置する朝日貝塚からまとまって出土,また七尾湾最奥に面する石川県田鶴浜町三引遺跡からも出土している.東京湾沿岸地域では,縄文時代遺跡から出土するイルカはカマイルカよりもマイルカである場合が多い.ところが海棲哺乳類情報データベースによれば,1960年1月〜1999年12月のマイルカ情報は44例にすぎず,しかも25例(56.8%)は日本海側であり,太平洋側は17例(38.6%)にとどまる.ちなみに,同期間のカマイルカ情報は221例,日本海側166例(75.1%),太平洋側55例(24.9%)である.つまり,かつてその名の示すように沿海で普通に見られたマイルカが,現在ではあまり見かけない状況になってしまったということになる.

O2 カナダ極北地域におけるシロイルカの捕獲と管理について:ヌナヴィク地域の事例を中心に


岸上伸啓(国立民族学博物館)


カナダ・イヌイットにとってシロイルカ(Delphinapterus leucas)は,食料としてだけではなく,社会・文化的に重要な資源である.ケベック州極北部ヌナヴィク地域のイヌイットは1975年に「ジェームズ湾および北ケッベク協定」を締結して以降,同地域を回遊するシロイルカの実態を調査し,カナダ政府とともに資源の共同管理に乗りだした.

1996年から2000年の5年間,カナダ政府の漁業海洋省はヌナヴィクのイヌイットから協力を得て,村ごとの捕獲頭数の割当制,禁猟区や禁猟期,その他の警告事項を設定し,実施した.この地域全体の捕獲割当の総数は243頭であったが,2000年の管理見直しの会議において,この頭数に関してイヌイット側から不満が噴出した.カナダ政府とイヌイットの間で協議が重ねられ,年間捕獲制限頭数は2001−2002年の2年間に限り370頭と決定された.この捕獲制限頭数をめぐる協議では,政府側の「科学的な生態学的知識」とイヌイット側の「伝統的な生態学的知識」との間に対立が見られた.そして年間370頭という捕獲制限頭数は両者の妥協の産物として決定されたのである.

今回の報告では,ヌナヴィク地域のシロイルカ資源の捕獲と利用,管理の実態を紹介し,かつ共同管理の運営上の問題点を指摘する.結論は,以下の通りである.

(1)現在でもシロイルカは,イヌイットにとっては食料としてのみならず,社会・文化的に重要な資源である.
(2)イヌイットは夏から秋にかけて,小型ボートを利用した個人猟や大型ボートを利用した遠征狩猟によって,シロイルカを捕獲している.シロイルカの脂肪付き皮部(マッタック)や肉は,狩猟に参加したハンター間や他の村人の間で分配されている.
(3)イヌイットとカナダ政府によるシロイルカ資源の共同管理は,新たな資源管理形態として注目されてきたが,両者の意見に相違が存在する限り,有効な運営は困難である.資源の捕獲・利用者が主体的に参加できる管理制度を開発する必要がある.
(4)極北地域では,残留性有機汚染物質による海洋動物資源の汚染が問題になりつつある.これはイヌイットの食料となる資源の安全性に係わる.今後の資源管理では,シロイルカ資源の食料としての安全性の維持という点も重要になる.この公害の発生源は極北地域の外にあるため,問題を解決するためには国際的な取り決めが必要となる.

O3 北太平洋ミッドウェー諸島近海の海底から発見されたオウギハクジラ属の吻部化石


長澤一雄(山形県立高畠高校)・山田 格(国立科学博物館)・森 恭一(小笠原ホエールウォッチング協会)・新藤克之(元小笠原診療所)


本標本は,1980年頃,太平洋ミッドウェー諸島付近(北緯27度〜32度,東経170〜172度)で,水深約550〜1050mの海底から,魚網によって採集されたオウギハクジラ属Mesoplodonの吻部の化石である.化石には穿孔貝の生痕がいくつかみられることから,より浅所の化石包含層から侵食・洗い出し後に,採集地に移動してきたものであろう.化石の年代は不明であるが,化石化が進んでいることから,少なくとも第四紀以前の年代であり,また上顎歯が存在しないという同属の現生各種に共通する進化的形質をもつことから,後期中新世から鮮新世の可能性が大きい.オウギハクジラ属Mesoplodonの吻部化石は,日本海の水深数100m以浅のバンク(堆)から,やはり魚網によって採集されてきた.また,太平洋ハワイ諸島沖からも採集されており,コブオウギハクジラMesoplodon tumidirostrisとして記載されている.本標本は,日本海産化石やハワイ沖産化石に比較して,それらにみられない特徴が認められることから,今回その形態について報告する.

本標本は全体的にやや磨耗を受けているが,吻基部から先端までほぼ完全に保存されている.そして,長い吻部,上顎歯を消失した痕跡的な歯槽形態,吻部背側の隆起などから,アカボウクジラ科Ziphiidaeのオウギハクジラ属Mesoplodonに属すると考えられる.残存長52.3cm,最大高8.9cm,吻部最大内外幅5.1cm.本標本の特徴は次のようにまとめられる.

1)大型であること,2)吻幅が極端に狭いこと,3)吻中位部から前位部の背側でゆるやかな隆起を形成すること,4)吻後部の腹側がやや突出すること,5)吻側面の前位部にやや深い歯槽の溝が形成されていること,などである.これらについて次に検討する.

1)本標本は日本海産化石より大きく,ハワイ沖産化石のとほぼ同程度と大型である.一般に日本海産化石は,ハワイ沖産化石より小さい.

2)本標本の背側観は,吻部の幅が狭いため直線的な棒状を示す.日本海産化石は,現生各種より吻部の幅が狭く,ハワイ沖産化石は日本海産化石よりさら狭くなるが,本標本はそれらに比較して最も狭い.

3)このような吻部背側の隆起は,吻央化骨(mesorostral ossification)と呼ばれる本属の大きな特徴であるが,日本海化石およびハワイ沖産化石は,吻基部で顕著なコブ状の隆起を形成する.隆起は鋤骨の強い上昇と露出によるもので,背側観がやや非対称形をなす.それに対し本標本は,吻前〜中位部でゆるやかな隆起を示す.その隆起部は,鋤骨が前上顎骨を全体的に押し上げ,それと一体化して形成されており,鋤骨の露出は頂部の一部に限られる.隆起の背側観はほぼ対称形である.また本標本の背側の前上顎骨は,隆起の頂部以外はほぼ閉じて正中で縫合している.

4)吻腹側後部の突出は,日本海産化石でほとんどなく,ハワイ沖産化石においてみられるが,本標本が最も顕著である.

5)日本海産化石や現生各種の歯槽は,浅い細溝状をなしてより痕跡的であるが,本標本やハワイ沖化石では,前位部で深い溝を形成している.こうした特徴から,本標本はこれまで知られていない種の可能性があると思われる.

O4 越後西山海岸へ漂着した雌ネズミイルカ臓器の組織学的観察


本間義治・牛木辰男・橋都浩哉・武田政衛(新潟大医3解)・進藤順治(新潟市水族館)


【目的】 2001年2月26日に,新潟県刈羽郡西山町海岸へ漂着した若い雌ネズミイルカ(全長1.3m)は,既報(Honma,et al.,2002)のように,発見後,一旦砂中に埋められたものを掘り起こし,臓器の一部を摘出して固定したものである.そのため,組織の退行崩壊が懸念されたが,顕微鏡像は按じていたよりも良好であった.そこで,従前に引き続き,漂着死の原因究明の一貫としていくつかの器官組織の観察を進めてみた.

【結果】 雌性生殖器は,既報(Honma,et al.,2002)したように卵巣は原始ならびに1次卵胞と,ごく少数の閉鎖卵で占められ,二次卵胞以上に発育したものは認められなかった.卵管・子宮の分泌腺の発達も悪かったが,腟壁には角化剥離像も観察され,注目された.今回は,さらに常法に従ってプレパラートを作成した器官につき,組織学的検索を行った結果を述べる.肝臓は,小葉の形が不明瞭であるが,肝細胞索は洞様管と共に放射状に配列しており,胆管は目立なかった.一部には顕著な脂肪蓄積や鬱血部ならびに結節が見られた.膵外分泌部は,酵素顆粒の豊富な大型細胞と,細胞質が濃染されて顆粒をもたぬ小型細胞とから構成されていた.多数の膵内分泌部(ランゲルハンス小島)は,外分泌組織内に散在し,最多数のB(インシュリン産生),次いでA(グルカゴン産生),極少数のD(ソマトスタチン産生)細胞が識別できた.脾臓は被膜が厚く,脾柱が発達しているが,赤脾髄と白脾髄の区別はそれほど明瞭でなかった.髄質部には,多数のリポフスチン様の黄褐色色素と,相当数の大食細胞が存在していたが,活発な食作用は観察されなかった.多数の腎分体(reniculus)の集合より 成る腎臓は,ほとんど異常が認められなかったが,腎小体には壊死を起こしているものがあった.膀胱内壁の上皮には,一部が結合組織と共に隆起し,表層の細胞は角質化の兆候を示していた.この像は,初期の乳頭腫と診断された.肺は,肺胞の筋弾性括約結束の大部分を取り囲む軟骨輪片の存在することが特徴である.しかし,肺胞上皮細胞は潰れ,毛細管は充血していた.不随意横紋筋繊維の吻合より成る心筋には,横線状の介在板が見られ,繊維束の横断面はコーンハイム野を示した.

【考察】 新潟県沿岸へ漂着し,臓器が組織学的検索に供されたネズミイルカは,1990年2月6日に新潟市青山海岸で発見された全長1.65mの雄1個体のみである(Honma,et al.,1992).これは,顎歯が抜けたりした放精後の老衰個体であった.すでに要報したように(Honma,et al.,1999),いままで組織学的研究を行った北陸地方沿岸へ漂着した海生哺乳類9個体は,すべて老体か幼体であった.今回の標本も,それを補強する資料となり,まだ生殖能力を保持した成・壮年体は得られていない.今回検索した限りでは,この幼個体の死因を探ることは出来なかった.今後は溺死による肺組織像の変化などの例数を加え,解明していきたい.  

O5 漂着海棲哺乳類に関する肉眼病理学調査報告―2001年 5月〜2002 年5月―


田島木綿子(東京大学大学院)・新井上巳(東京医科歯科大学大学院)・林 良博(東京大学大学院) ,山田格(国立科学博物館)


【はじめに】 国立科学博物館を拠点として進められている日本沿岸に漂着する海棲哺乳類の調査の一部を第11,12回大会で報告した.今回も2001年5月から約1年間に日本海側および太平洋側に漂着した海棲哺乳類のうち国立科学博物館に報告された症例に関して特に演者らが深く関与した肉眼病理学的調査について報告する.

【症例】 病理解剖した頭数/国立科学博物館標本数:日本海側;9頭/25標本(内訳:オウギハクジラ4頭,ハンドウイルカ2頭,ツチクジラ,スナメリ,ハセイルカ各1頭),太平洋側;12頭/97標本(内訳:コマッコウ2頭,カズハゴンドウ5頭,ナガスクジラ,ミンククジラ,オガワコマッコウ,ミナミハンドウ,スナメリ各1頭).合計21頭/122頭.日本海側都道府県別件数:秋田県2件,山形県1件,新潟県1件,石川県2件,山口県2件,福岡県1件. 詳細は<表1>を参照.

【結果と考察】 混獲個体2例全てに気道内の白色泡沫状物と肺水腫が認められ,これらは溺死を示唆する.生前から患っていたであろう病変がみられたのはナガスクジラ(B)の脊椎骨折のみであり,この場合個体を死に追いやる充分な原因となる.全身性のリンパ節腫大も混獲個体共通に認められたが,ナガスクジラ以外の個体では肉眼的にその原因は特定できていない.漂着個体のうち溺死および/またはうっ血(急性の循環障害による)が18個体の肺で認められた.全身性リンパ節腫大が13個体で認められ,その原因は寄生虫による可能性が考えられるもの,肉眼的にはその原因を特定できないものがあった.前胃または主胃にAnisakis sp.線虫が認められたのは9個体であり,そのうち潰瘍を伴うものは7個体で,その全てが太平洋側漂着の小型ハクジラであった.潰瘍の程度には個体差があり,特にコマッコウ2頭(G.H)では漂着の一要因とも考えられる.一般に重度の寄生虫感染症は日和見感染症(宿主の免疫機能が何らかの原因により低下すると通常では感染力を有しないまたは極めて弱い病原力の微生物により発症し,重篤なものでは死亡することもある)に属する.しかし,コマッコウ2個体では日和見感染症を発症させる基礎疾患を肉眼的に特定できなかった.肺の寄生虫(スナメリではHalocerucus sp.線虫,カズハゴンドウでは種未同定)性結節が7個体で観察されたが,どの個体も致死的ではないと判断される.胃内の外来性異物は従来から問題となっているオウギハクジラを含めて6個体に認められた.どの個体も通常の摂餌が阻害されるほど異物が充満しているわけではないが,海洋汚染を考察する上では重要な所見と考える.全身性うっ血が3個体で観察されたが,心疾患等の基礎疾患を同時に観察しなかったので,死戦期に起きた急性の循環不全によるものと考える.さらに症例毎に所見を紹介し,若干の考察を加える.約3年間,漂着海棲哺乳類の病理学的調査を継続してきたがその中でなぜ漂着するのか,なぜ死亡するのかという疑問への解答は少しずつではあるが明らかとなってきた.これからもデータ蓄積を続けて未解決の問題に挑戦していく所存である.


<表1>
混獲個体
2001年
A 5月16日 神奈川県藤沢市 ミンククジラ(Balaenoptera acutorostrata メス238cm 生存
B 5月31日 兵庫県津名町 ナガスクジラ(Balaenoptera physalus メス962cm 生存
漂着個体
2001
C 3月24日 大分県杵築市 スナメリ(Neophocaena phocaenoides メス113cm 死亡
D 6月23日 秋田県八竜町 ツチクジラ(Berardius bairdii メス1049cm 死亡
E 7月20日 東京都御蔵島村 ミナミハンドウ(Tursiops aduncus オス216.5cm 死亡
F 10月8日 宮崎県宮崎市 オガワコマッコウ(Kogia simus オス227cm 生存
G 12月15日 千葉県館山市 コマッコウ(Kogia breviceps オス189cm 生存
H 12月15日 千葉県館山市 コマッコウ(Kogia breviceps メス163.5cm 生存
I 12月27日 山形県鶴岡市 ハンドウイルカ(Tursiops truncatus メス238cm 死亡
2002
J 2月9日 新潟県柏崎市 ハンドウイルカ(Tursiops truncatus メス202cm 死亡
K 2月20日 福岡県津屋崎町 オウギハクジラ(Mesoplodon stejnegeri オス462cm 生存
L 2月23日 茨城県波崎町 カズハゴンドウ(Peponocephala electra オス不明 生存
M 2月23日 茨城県波崎町 カズハゴンドウ(Peponocephala electra メス228cm 生存
N 2月23日 茨城県波崎町 カズハゴンドウ(Peponocephala electra オス211cm 生存
O 2月23日 茨城県波崎町 カズハゴンドウ(Peponocephala electra メス2 50cm 生存
P 2月23日 茨城県波崎町 カズハゴンドウ(Peponocephala electra メス248cm 生存
Q 4月16日 石川県小松市 オウギハクジラ(Mesoplodon stejnegeri オス460cm 死亡
R 4月19日 秋田県八森町 オウギハクジラ(Mesoplodon stejnegeri オス195cm 死亡
S 4月29日 石川県能都町 オウギハクジラ(Mesoplodon stejnegeri メス502cm 生存
T 5月6日 山口県下関市 スナメリ(Neophocaena phocaenoides オス78.5cm 生存
U 5月8日 山口県下関市 ハセイルカ(Delphinus capensis メス223.5cm 生存


O6 佐渡海峡における佐渡汽船乗組員の鯨類目撃記録―2001年度―


本間義治(新潟大院医歯研究科顕微解剖分野)・古川原芳明(佐渡汽船)


【目的】 佐渡汽船乗組員による『海上浮遊障害物監視情報』は,1994年4月から開始された.これは,1977年5月以来,新潟〜両津(新潟)航路に就航しているジェットフォイル(J)と未知物体との衝突事故に端を発している.前報(本間・古川原,2002)でも述べたように,これは"鯨情報"としての効用と側面をもつので,経年ごとに表示を続け,解析結果を報告してきた.ことに2000年度からは,クジラの目撃頻度が増えたので,イルカは除くことにした.2001年度についても,さらにクジラの目撃例が増えたうえに,2000年度と同様な傾向がみられたので,従前に引き続き解析を試み,結果を報告する.

【結果】 今回は,新潟,寺泊〜赤泊(寺泊),直江津〜小木(直江津)の3航路から目撃情報が寄せられた.内訳は,新潟53例,直江津46例,寺泊航路5例で,初めて新潟が最多数となった.因みに,2000年度は新潟19,直江津28,寺泊0例であった.しかし,Jもカーフェリー(C)も,ことにJの就航数は新潟の方が5倍も多いことを考慮せねばならない.1艘当たりのクジラ遭遇数を平均すると,直江津の方がまさる.クジラの目撃は,3〜7月の間に多く,遭遇時間は7〜15時台に多かったが,2000年度は14〜15時台であった.遭遇ポイントを航路図にプロットすると,越後(本土)側よりも佐渡島寄りが多い.しかし,回遊方向については,まだ特定できるほどの資料は集まっていない.2001年度は,7〜8m大の10〜10数頭の群れが5回も目撃されており,あるいはツチクジラかと推定された.2001年6月29日には,『障害物情報』が始められてから初めて,直江津航路のJから,タイミング良くクジラの群れが撮影された.この群れは,潮吹きや背部の形状からツチクジラと同定された.もちろん,乗組員は鯨類の識別法を学んだことはないし,浮遊障害物を発見すると就航船の安全化を図るため,急旋回,減速 ,停船などの処置を取らねばならない.したがって,今回の写真記録は種の特定ができた最初の例として意義深い.

【まとめ】 新潟航路では,Jが就航以来9回の衝突事故が発生し,遺伝子解析で衝突相手がオウギハクジラと判明した例もある(Honma,et al.,1999).世界・本邦を問わずJの運航海域は,鯨類の分布が佐渡海峡よりも多い航路が大半であるのに,鯨類との遭遇配慮が取られていないらしい.佐渡航路の経験と実績を生かし,是非充分な対策を取るよう希うものである.

O7 福岡県沿岸における鯨類の漂着・迷入・混獲について(1997年〜2001年)


中村 雅之(海の中道海洋生態科学館)・蛭田 密(福岡市)


当館では1987年から1991年,1992年から1996年の各5年間における福岡県沿岸における鯨類の漂着・迷入・混獲の記録を取りまとめ報告してきた.今回はそれ以降1997年から2001年までの5年間で11種43例59頭(うち種不明3頭を含む)を確認したので報告する.43例中,漂着19例(44.2%),迷入9例(20.8%),混獲11例(25.6%),座礁2例(4.7%),漂流2例(4.7%)であった.そのうち迷入後湾外・沖へ自力で出て行ったもの2例4頭,保護して当館で飼育したもの2種3例4頭,捕獲後放流したもの4種5例6頭が確認された.また写真・映像・新聞記事・目撃情報・鯨研通信からの確認は21例であった.

O8 米国のストランディングネットワーク対応と現状

 (要旨提出のみ)

荻野みちる(海の哺乳類情報センター)・石川 創(財団法人日本鯨類研究所)


本報告は海外のストランディング対応と現状および法律について米国を中心に解説するとともに,最近米国西海岸で猛威を振るっている海洋毒性生物(神経障害性毒)の海生哺乳類への影響の症例などを併せて報告するものである.

米国では,ストランディングが発生した場合,発見者は24時間対応の緊急電話番号で専門のオペレーションセンターに通報し,対応する機関からは管轄の国立海洋漁業局に連絡,合わせて報道および市民の安全を守るべく地元沿岸警察や市当局などにも連絡し,ストランディング個体がまだ生きている場合は,救助隊が組織されて現場に急行する.死んだ場合は,あらかじめ登録している研究者に連絡,研究調査活動に貢献するべく必要な臓器および部位が研究機関に提供される.この一連の流れを構成する対応機関は主にボランティアを中心とした非営利団体が担っているが,すべての活動は合衆国海棲哺乳類保護法に基づいており,法による権限を与えられた者のみがストランディングに係わることが可能となっている.各地域のストランディングネットワークは連邦及び州,地方の行政機関によって作られた法的枠組みの中で活動し,国立海洋漁業局がこれを管轄している.一連の救助に関わる資金は,基本的に対応機関である非営利団体が集めた寄付金でまかなわれる.また資金提供以外に,労力や重機の提供等もボランティアで行われている.これらの寄付金は主に海棲哺乳類の救助,リハビリテーシ ョン及び野生復帰,さらに一般市民,特に子供向けの教育普及活動に当てられている.

このように,米国のストランディング対応の特徴は,1)法律に基づき行政機関が管轄していること,2)実際の救助活動は非営利団体のボランティアが行政機関と連絡を密にして対応していること,3)資金は寄付金で賄われ,その使い道は研究調査活動よりもむしろ海棲哺乳類の救助,リハビリや餌代,社会啓蒙活動に優先されること,などが挙げられる.

日本でも米国にならったネットワーク構築を望む声が高いが,まず土壌となる法規の有無や文化(社会的認識)の違いを十分に考慮し,安易な比較や模倣は避けるべきである.特に法的根拠や責任の所在が曖昧な状況で大規模な救助活動を行う場合は,万が一の事故への対応をまず検討しておく必要があろう.

O9 マスストランディングの現場にて


山田 格(国立科学博物館),久保信隆(いおワールドかごしま水族館),天野雅男(東京大学),早野あづさ(京都大学)


2001年2月からの1年間に我が国では規模の大きな鯨類のマスストランディングが発生し,社会的にも話題になった(付表).現場には近隣の水族館,博物館をはじめ各地の研究機関から研究者が集まり,対応の主体たる市町村レベルの自治体の当該部局と協力して事に当たった.これらの経験の中で,感じたことのいくつかと将来の課題などを述べる.

1.マスストランディングの原因:ストランディングの原因としては寄生虫,地磁気,エコロケーションの問題などが挙げられているが,ストランディング個体の健康状態チェック,死亡個体の病理学的精査などが十分に行われておらず今後の課題は山積している.特に風や水温などの気象条件や潮汐の状況,ストランド個体の数(単独か複数か,あるいは大きな群か)などの条件を明確にした上で検討を重ねて行かねばなるまい.

2.行政の問題点:「最近は多いですね」などとよくいわれる状況ではあるが,一般には当事者たる自治体にとっては未曾有の事態であり,現実には市町村レベルでは対処しきれない状況になることが多い.「埋却または焼却」という水産庁の指導だけではまったく不十分であり,災害対策レベルの緊急事態となるので,現状では行政の枠をこえた処理が必要になる.法体制の見直しを含む積極的な対策が望まれる.また,食用資源としての意義が云々されることが多いが,大型クジラの場合,急速に進む死後変化などを考慮すると,食用に供することの可能性は問題にならない.クジラの大きさ,地形,気象条件などの条件を勘案し,救護に関する判断を下す際の基準の策定も急務である.いずれにしても次項でふれる調査・記録の責務に対し,行政側も積極的な方針をとらねば個々の出来事は散発的な「その場しのぎ」の蓄積を生むだけで,将来への人智涵養の機会を失することになる.

3.研究者側の問題点:どのような規模であれ,海棲哺乳類の現状を把握しようとするならば,ストランディング個体の状態を調査し,記録を残しておくことは不可欠である.救護,保護・リハビリテーション,リリースなどの方針決定を行うにしても,過去の例についての知見の有機的な蓄積が欠かせない.最初に述べたストランディングの原因に迫ることを目指すにせよ,当該種の現状把握を目指すにせよ,ある一定の(あるいはそれ以上の)水準で調査を進めなければならない.複数の研究者が事に当たる場合,そのイベントごとに調査団結成にも似た役割分担を実現できるような体制をつくらなければならない.

対象個体が多数の場合,ボランティアの組織化が不可欠であり,現状では巨大な一般廃棄物とされるクジラの死体処理のはざまをぬって最低限の調査を行えるかどうかが課題のように見えるが,このきわめて制限された状況の中で最大限の成果を挙げ,調査・記録の必要性に対する行政と大衆の支持を得るべく努力することが将来の研究可能性をもたらす.


付表
年月日 漂着地 種(和名) 漂着個体数
2001年2月21日 茨城県波崎町 カズハゴンドウ 約50頭
2001年3月11日 鹿児島県中種子町 カズハゴンドウ 171頭
2002年1月22日 鹿児島県大浦町 マッコウクジラ 14頭
2002年2月24日 茨城県波崎町 カズハゴンドウ 約10頭
2002年2月24日 茨城県波崎町 カズハゴンドウ 85頭



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