民族捕鯨―考古学的視点からの提言―

 
平口 哲夫(金沢医大・人文)

 Ethnic Whaling: From the Viewpoint of Archaeology
Tetsuo HIRAGUCHI

第4回国際海洋生物研究所研究集会(鴨川, '92.2 )において、演者は、考古学が研究対象とする先史または古代の捕鯨に対し、文化人類学が研究対象とする現代または民族学的現代の捕鯨を民族捕鯨と呼び、両者を比較しながら「古代捕鯨の多様性」を予察的に論じた。その際、民族捕鯨( ethnic whaling )という名称については、民族音楽( ethnic music )にならってそう呼ぶことにしたのであり、先例があるかどうかの確認はしていない。

民族音楽の定義に広狭があるように、民族捕鯨の定義についても広狭が生じるであろう。考古学にとっては、近代欧米式の捕鯨よりも、いわゆる原住民または先住民捕鯨( aboriginal/indigenous whaling )が比較対象として重要である。しかし、現代の捕鯨問題を文化人類学的に扱うには、当然、商業捕鯨をも含めた広い枠組みで検討しなければならない。

日本の小型沿岸捕鯨についての文化人類学的調査によれば、この種の捕鯨はIWCによる二つのカカテゴリー、すなわち商業捕鯨と原住民生存捕鯨( aboriginal / subsistence whaling )のいずれにも当てはまらず、相互に重なりあいながらも第3のカテゴリーを構成するという(M・フリーマンほか、1989)。捕鯨文化の多様性は、考古学的にもある程度明らかにすることができる。とくに日本の場合、縄文時代のイルカ漁以来、5000年以上に亙る捕鯨の歴史があり、古代捕鯨から近世捕鯨をへて近代捕鯨が成立したので、歴史的変遷についての理解なしには、その特性を十分語ることはできない。

(平口哲夫,1992,「民族捕鯨―考古学的視点からの提言―」, 第46回日本人類学会・日本民族学会連合大会研究発表抄録,63)

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